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2008年3月28日 (金曜日)

【43. 研修終了にあたって】

カテゴリー: - egami @ 17時37分14秒

 
 1年に及ぶハーバード大学での滞在研修も、3月で終了になります。

 この1年を通して感じたことのひとつは、図書館の運営・サービスの方法・考え方にはじつにさまざまなものがある、ということでした。あって当然と思われるかもしれませんが、実際、日本の図書館運営はどうしても横並びになってしまいがちです。対してアメリカでは、同じ大学図書館であっても、蔵書の傾向も、サービス対象者も、学生のニーズや研究者の動向も、それぞれの大学によってまったく異なりますし、それに応じて、資料の取り扱いやサービス方針、図書館というものがどうあるべきかという考え方も千差万別なものになってきます。同じハーバード大学内でありながら、利用のルールやポリシー、採用するシステムが違う、ということも珍しくはありません。
それは、「他所がこれをやっているから、うちも」「誰それがそう言っているから、その通りに」というような姿勢ではなく、各館・各ライブラリアンがその事情や条件にもとづいて自主的に判断した結果なのだろうと思います。もちろん、それぞれの方法・考え方にメリットもデメリットもあるのでしょうし、適・不適、効果的・非効果的の差もあって当然だとは思います。ですが、これだけ多様な方法・考え方での図書館運営・サービスが現に行なわれている様子を拝見して、決してどれが”正解”と言えるわけではないし、とるべき道もひとつではないんだ、ということをあらためて実感できました。

 もうひとつは、アメリカの大学図書館での運営・サービスの方法やシステムを、そのままのかたちで日本に持って帰って適用しようとするやり方は、決して好ましくはない、ということです。アメリカをはじめ海外の大学図書館には多くの進んだサービスや専門性の高い運営体制があります。私自身もそれを見てきましたし、アメリカを訪れる他の図書館員のみなさんもたくさんそれをご覧になってきたことと思います。ですが、その見たまま、聞いたままのかたちのものを、そのまま日本で採用しようとしたり、日本の図書館と比較したりということが、果たしてどれだけ有効なものであるかについては、疑問が残ります。それらサービスや運営体制、システムといったものは、それぞれの大学、社会が持つ環境や背景のもとに成り立っているからです。
 24時間開館のラーニング・コモンズが成功しているUMass Amherst校には、学部生が寮生活を義務付けられており、かつキャンパス周辺にパブリックな施設がほとんどない、という事情があります。図書館内にカフェを併設することの是非を考えるにあたっては、アメリカでそれが成功し流行しているからという現象だけで判断するのではなく、資料保存に対する取り組み、学生に課せられるグループ課題とディスカッションのあり方、ルール違反に対する処罰、さらには食習慣や衛生観念に至るまで、さまざまな日米間の”違い”を理解しておく必要があります。そして、図書館に専門職が必要とはいっても、社会全体における雇用や求職・就職のあり方の違いを無視して、図書館の人事制度だけを比較したり真似ようとしたりすることには無理があるでしょう。重要なのは制度ではなく、専門職を確保することによって利用者に何を保証しているのか、資料をどう守っているのか、のほうだと思います。
 表に見えている図書館運営・サービスの有り様だけを切り取って、日本に直輸入しても、真に根付くことは難しいでしょうし、根本的な問題解決には寄与できません。それを成り立たせている環境や背景といったものを考慮しつつ、何を必要とし、どんな信念に基づいて、何を実現させるためにそれを行なっているかを理解することができれば、同じことの実現のために日本ではどう動けばよいかが、より適切に判断できるように思います。

 今回の研修では、そういった多様性や、それぞれの背景にあるものについて、できるだけ目を向けるようにしてきたつもりです。みなさんにはどのように感じられたでしょうか。

 1年間お世話になったハーバード・イェンチン図書館の皆様、訪問・見学に快く応じてくださった各図書館・機関の皆様、このような機会を与えてくださった京都大学附属図書館の皆様に、この場をお借りして感謝申し上げます。どうもありがとうございました。


【42. 次世代OPACへ向けて – Discovery and Metadata Coordinating Committee】

カテゴリー: - egami @ 09時08分25秒

 2007年秋、ハーバード図書館を統括するUniversity Library Councilのもとに、「Discovery and Metadata Coordinating Committee」が新しく発足しました。これは、蔵書検索用OPACなど、ハーバードにおけるdiscovery system(=利用者が本や資料を検索し、発見するためのデータベース・システム)やcatalogingのあり方を、時代に合わせた新しいものに進化させ、再構築させることを目的としています。

 情報技術、学術情報環境の目まぐるしい発展や、webサービスのあり方そのものの変化に伴い、図書館が提供する蔵書検索用データベース・OPACもまた進化させていかなければなりません。技術革新と利用者ニーズに見合った機能、GoogleやAmazonやはてななど、他のwebサービスがすでに実現している機能を備えたものとして、各国の図書館で現在急ピッチで構築されつつあるのが、いわゆる”次世代OPAC”です。例えば「ファセット」「FRBR化」「ソーシャルタグ」といった機能やサービスが考えられています。

ファセットの例:OCLC WorldCat (http://worldcat​.org/)
検索結果を分析して、しぼりこみ用のキーワードを提示する
fig42-1
 

FRBR化の例:OCLC WorldCat (http://worldcat​.org/)
同じ作品・著作の異なる版をひとまとめにする
fig42-2
 

ソーシャルタグの例:国立国会図書館PORTA (http://porta.nd​l.go.jp/portal/​)
ユーザが自分でキーワードを登録し、お互いに参照できる
fig42-3
 

 ハーバードの図書館でもこの”次世代OPAC”の実現が喫緊の課題とされています。その取り組みの一環として発足したのがDiscovery and Metadata Coordinating Committeeです。この委員会の下には、Aleph(図書館用業務システム・目録システム)の委員会、書誌標準のためのワーキンググループ、カタロガーのディスカッショングループ、VIA(ビジュアル資料用目録データベース)のワーキンググループなど、目録・検索用データベースに関わるたくさんのグループが含まれています。Discovery and Metadata Coordinating Committeeは、これら各グループ同士の調整やコミュニケーション整備を行ないながら、次世代OPACをはじめとする将来的な情報サービス・検索システムと、それを支える目録システムの構築を舵取りしていくことになります。

 Discovery and Metadata Coordinating Committeeの前身は、2006年秋から1年間活動していたTask Group on Discovery and Metadataというタスクグループでした。

 Task Group on Discovery and Metadata
 http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=k13676&pageid=icb.page74966

このタスクグループでは、discovery systemやcatalogingのあるべき機能とあり方について、キーとなる情報技術や内外の動向をレビューし、ハーバードにおける現実的かつ具体的なアクションについて提案する、ということが求められていました。多数のテーマを設定し、その概要や背景・具体例を調査し、それらをどう評価するか、優先して採用すべきはどれかなどをグループ内で検討した結果、提示されたのが、2007年9月に発表された最終報告書です。

 最終報告書(Task Group Final Report)
 http://isites.h​arvard.edu/fs/d​ocs/icb.topic11​7213.files/TGDM​_final_report_Sept_07.pdf
 添付資料
 http://isites.h​arvard.edu/fs/d​ocs/icb.topic11​7213.files/TGDM​_final_report_Appendices.pdf

 この報告書は3部構成となっていて、今後数年注視しておくべき技術や考え方のレビュー、それにもとづく見解、今後とるべき行動などが示されています。レビューでは、先に述べたファセットやタグのほか、各目録標準に対する評価、データをいかに多様化させるか、ユーザ自身のメタデータ構築への参加など、様々なテーマが概説されています。そしてそれらレビューにもとづいた見解では、OPACのリプレイスは真っ先に行なわなければならない、外部リソースに頼ってでも書誌レコードを成長させなければならない、といった勧告がなされる一方で、目録や書誌レコードそのものの構造を変えるといったことに着手すべきではないというような現実的な姿勢も提示されています。また、今後の行動についても、あまりにも変化の激しい環境下で長期的手段の検討は得策ではない、との考えから、次年度において当面とるべき行動を示すにとどまっています。
 これらの取り組みと報告は、実際に次世代OPAC等の構築にとりかかるためだけではなく、学内全図書館やライブラリアンに対して問題意識を換気する、という意味合いもあったようです。実際、この最終報告書についての学内説明会が、12月と2月の2度行なわれました。
 そしてこの報告書での提案にもとづき、学内の関連する各部署・委員会・グループの活動を調整しながら、その実現へ向けて取り組んでいるのが、現在のDiscovery and Metadata Coordinating Committeeである、ということになります。

 図書館のユーザを含め、我々は、日々進化する情報環境・情報サービスに囲まれて暮らしています。その反面、旧来の姿のままである図書館目録へのユーザの不満は募る一方ということになってしまいます。次世代OPACや新しいwebサービスのあり方へ向けての、柔軟かつ敏捷な取り組みが、いま、求められています。


【41. 手軽に情報共有・情報発信 – iSite】

カテゴリー: - egami @ 09時08分16秒

 ハーバードでライブラリアンのみなさんの仕事振りを拝見していて、日本での仕事の進め方と際立ってちがうと感じることのひとつが、お互いの持っている情報を上手に共有し、柔軟に活用していく、という姿勢です。勉強会による情報共有(【8. 日米”勉強会”事情】)やe-resourceに関する情報のマネジメント(【36. オンライン資料を効率的に管理する – E-Resource Management】)などの事例をこれまでご紹介しましたが、今回はiSiteというツールを使った、webサイトによる情報共有・情報発信についてご紹介します。

 iSites
 http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=icommons&pageid=icb.page11690

 iSitesは、ブラウザ上で操作してwebサイトを作成することができる、webベースのコンテンツマネジメントシステムです。HTMLに知識のない人や、エディタを持っていない人でも、一定程度のレイアウト、デザインと機能を持ったwebサイトを自作することができます。そもそもは、授業のためのwebサイトとして、教員から学生に資料や講義情報を提供することができるように、というツールですが、授業用だけではなく、研究グループ用サイトを作成したり、事務員が業務用webサイトを構築することも可能となっています。
ハーバードの各図書館やライブラリアン、及びそのグループの利用も多く、公開用・限定用のリサーチガイドとして利用者向けのコンテンツを作成したり、業務用Webサイトを構築して情報を共有・公開したりといった活用がなされています。ハーバードには複数の図書館同士によるプロジェクトや、全学レベルで連携しあっての委員会・ワーキンググループの類が非常に多く、それらグループにおけるメンバー同士の情報共有や、他のライブラリアンへの情報公開といったことに、このiSiteが大いに活用されています。

Science Libraries @ Harvard
http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=k21001
fig41-1
 

Bibliographic Standards Working Group
http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=k26185
fig41-2
 

E-Resource Management & Licensing – Harvard Libraries
http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=k11228
fig41-3
 

 webページ作成の経験がない人でも、自分自身の手で自由にサイトを構成し、情報発信を手軽に行なうことができるのが特徴です。また、PINSYSTEM(【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】)を利用して、一般公開できない情報や、特定少数のメンバーだけで共有したい情報に対してアクセスコントロールを行なうこともできます。
 さらに、特定の部局のサーバを間借りしたり、システム担当者に手間を依頼したりといったことが必要ない、というのもこのツールの大きな利点です。複数館または全学レベルでの連携によるグループであっても、webサイトの置き場や管理者について交渉や捻出の必要がなく、比較的スムーズにスタートできることになります。


【40. 専門家による資料診断 – Weissman Preservation Center】

カテゴリー: - egami @ 09時08分06秒

 かつて、HCLのCollections Conservation Labについてご紹介しました(【12. 年間40,000冊の本を修復する工房 – Collections Conservation Lab】)。このLabは一般的な貸出用図書の修復・保存処置を行なっていますが、もうひとつの保存部署・Weissman Preservation Centerでは、特殊資料の修復・保存処置を担当しています。

 Weissman Preservation Center
 http://preserve​.harvard.edu/wp​c.html

 ここでは古典籍や写本、写真など、希少で学術・歴史的価値を持つような特殊資料について、修復や保存のための処置を行なっています。書籍のconservatorだけでなく、紙を専門とするconservator、写真専門のconservatorなど、それぞれの資料保存についての知識と技術を持った専門家が対応しています。一度その修復ラボを拝見したことがありますが、修復・保存処置に必要な設備が、伝統的なもの、最新の機器、ともにふんだんに用意されていました。人材面・技術面ともに非常に頼りがいのある専門部署であるという印象を受けました。

また、これも以前にご紹介したように(【38. 韓国古典籍コレクションデジタル化プロジェクト – ハーバードの蔵書デジタル化事業】)、蔵書デジタル化事業や展示、移動などに先立って、各図書館の所蔵する特殊資料の保存状態・破損状態を査定したり、相談にのってアドバイスを出したりといったことも、このWeissman Preservation Centerの重要な役割のひとつです。1年間の研修を通して学内のいろいろなライブラリアンの方に話をうかがう機会がありましたが、何かにつけてこの部署やconservatorについての話題が登場し、図書館活動のあらゆる場面で頼りにされている存在なのだろうという印象を受けました。
 昨年秋、イェンチン図書館で所蔵していた日本の資料・竹久夢二詩画集(昭和16年)を、このセンターのpaper conservatorに依頼して見てもらったことがあります。多色刷り版画資料10数枚を紙ケースに納めたもので、資料自体に大きな傷みはなかったのですが、ケースや台紙などの傷み・変色が目立つものでした。
 後日提出されたこの資料の診断結果報告書は、「Description」「Condition」「Proposed Treatment」の3部構成となっていました。「Description」では資料そのものについて記述され、多色刷りの版画であるということやそれぞれの内容のほか、紙の色、紙質、分析と化学的なテストによる繊維の原料・成分などが明らかにされています。台紙や紙ケースなどの付属物も同様です。次いで「Condition」では、それぞれがどのような状態にあるかが分析の上で報告されています。例えば、版画作品自体の状態は良いが、何番の台紙がひどく変色してしまっている。これは外側がフォルダに覆われていて直接接していたためである、といった具合です。そして、これら「Description」「Condition」にもとづき、当部署で行なう最適な処置はどのようなものかが「Proposed Treatment」として提示されます。今回の例では、版画作品と台紙を脱イオン化純水ではがすことができるかどうかをテストする。できるとわかれば、接着剤を除去し、再度和紙とでんぷん糊で台紙を付ける、といったようなことが処置案として記されていました。

 古典籍などの特殊資料は、破損・汚損など、一度被害を受けると元の状態を取り戻すのは非常に困難なものになってしまいます。それらを守るためには、たんに専門の部署があって担当者がいるというだけでなく、科学的根拠にもとづいた処置ができる専門家が専属のconservatorとして必要なのだろうと思います。


2008年3月24日 (月曜日)

【39. 学内インフラとしての支援体制 – ハーバードの蔵書デジタル化事業】

カテゴリー: - egami @ 12時42分50秒

 前回(【38. 韓国古典籍コレクションデジタル化プロジェクト – ハーバードの蔵書デジタル化事業】)の例のように、ハーバードの各図書館で蔵書をデジタル化・ネット提供するプロジェクトが執り行なわれる場合、専門の部署・サービスによる支援体制が学内に整えられています。撮影やデータ作成など、専門家・技術者による作業の請負いはもちろんですが、どのような方針でプロジェクトを進行していけばよいか、適切な技術・手法・取扱いについてなど、専門的知識と経験を備えたスタッフによるアドバイスやサポートを受けることもできます。
 このような支援体制や各部署・サービスは、ここ10年のうちに急速に整備されてきたものです。それ以前の蔵書デジタル事業は、個々の図書館がそれぞれのプロジェクトとして、その場ごとに行なわれていました。これを、できるだけ組織化・集中化させ、専門の部署に専門のスタッフを配置させることで、個々のプロジェクトに対して質の高いサポートを効率的に提供できるようになります。機材・技術だけでなく、人材・サービスや蓄積された知見など、プロジェクトをトータルでサポートしていますので、個々の図書館・プロジェクトの担当者は一からすべてを自分で準備する必要がなく、スムーズにプロジェクトをスタートさせることができます。また専門の部署が組織されることによって、学内での蔵書デジタル化事業が一過性のものとして終わるのではなく、必要な限りその支援体制が保証されることになります。彼らがこの支援体制を”インフラ”の形成として位置づけていることの意味が、そこにあるのではないかと思います。

● Imaging Service
 前回ご紹介したように、Imaging Serviceはハーバード大学図書館内の資料撮影・デジタル画像作成についての専門部署です。蔵書の写真撮影、マイクロフィルム作成、デジタル画像作成や、そのための保存修復・目録・メディア変換などを行ないます。

 Imaging Service
 http://hcl.harv​ard.edu/info/im​aging/

 Imaging Serviceが組織され、蔵書デジタル化支援のための活動を始めたのは1997年。当時は人員・機材ともに小規模でしたが、インターネットでの蔵書公開が普及し始めた頃でもあり、数年と経たないうちに需要が急速に増え始めたそうです。現在では、撮影技術者・カタロガーなど約40人のスタッフを抱える大所帯となっています。
 Widener Libraryの地下を改装して居を構えたのが2000年頃。現在では複数の暗室や撮影スタジオが専用スペースとして設けられています。撮影用カメラも、マイクロフィルム用、デジタルスキャン用、オーバーヘッドカメラなど様々なものが用意されていますし、書籍資料をスキャンするためのブックスキャナーも複数台そろっています。撮影スタジオも、通常の環境のスタジオに加えて、貴重書用に光量の微調整が可能なスタジオや、地図などの大型資料専門のスタジオなどが設けられており、様々な種類の資料に対応しています。
 近代出版物のデジタルスキャンでは、OCRによるテキストデータ作成もこのImaging Serviceで行なわれています。専属のスタッフがPC画面上で、ソフトによる読み取りと人の目による判断の両方でその作成を行なっていました。テキストデータのほか、インデクス、チャプター、ページなど、画像データの提供・管理用の情報もここで取り扱われています。

 Imaging Serviceでは、上記のような実作業の請負いばかりでなく、デジタル化プロジェクトそのものの計画や実際の進行について、専門スタッフによるアドバイスや提案、他部署との連絡調整というかたちでのサポートを行なっています。Librarian for Collections Digitizationと呼ばれる専門のライブラリアンによるAdvisory Serviceでは、求めに応じて各図書館・プロジェクトの担当者との打ち合わせが行なわれ、例えば、撮影方法や画像仕様、公開方法はどのようにするべきか、資料保存部署からはどのようなサポートを受けるべきか、目録やメタデータの作成は誰がどのような方法で行なうのがよいか、などが提案されます。持ち込まれるプロジェクトには、前回の韓国古典籍プロジェクトのようにまとまった規模の資料を全ページスキャンするというものもありますし、出版物への図版掲載用に数冊から数箇所だけを選んで撮影する、といったものもあります。

● Preservation
 Imaging Serviceは、前回ご紹介したWeissman Preservation Center (WPC:貴重書専門の資料保存部署)や、以前【12. 年間40,000冊の本を修復する工房 – Collections Conservation Lab】でご紹介したHCL Collections Conservation Laboratory(貸出用一般図書担当の資料保存部署)とともにPreservation & Imaging Departmentというひとつのグループで活動しています。Imaging ServiceはもともとWPC内の一部署としてスタートしたということでした。また、現在Imaging ServiceのあるWidener Libraryの地下にはHCL Collections Conservation Laboratoryが同居しており、密接な連携を保っています。Imaging Serviceによる撮影・デジタル化の際は、常にこれらの部署の保存専門家によるアドバイスが入ることになります。

 Library Preservation at Harvard
 http://preserve​.harvard.edu/

 このように蔵書のデジタル化においては、資料保存活動及びその部署との関わりが非常に重要視されています。上記webサイトを見ても”保存”と”撮影・デジタル化”とがコインの表裏のように考えられていることがわかります。「複製・媒体変換による蔵書の保存が、デジタル化の目的である」ということだけでなく、「撮影・デジタル化にあたってその資料が傷むことのないよう管理する、対策をとる」ということもその大きな理由のひとつです。
 実際に蔵書デジタル化事業が行なわれる際には、通常、学内の保存部署の専門家によって、資料の保存状態のチェックが行なわれます。チェックの結果、適切な撮影方法や機材が提案されることもあれば、事前に修復処置が施されたり、状態によっては撮影が断念されることもあるようです。韓国古典籍のプロジェクトの例のように、撮影前に保存部署自身の手でいったん製本が解かれることもあり、その場合には撮影後に同じくその保存部署によって再製本されることになります。ページどうしがくっついてしまっているものをはがしてから撮影にかける、といったこともあるようです。
 2つの保存部署とImaging Serviceはともに、経験の蓄積に基づいたガイドラインやベストプラクティスなどを文書として公表したり、採用すべき外部のスタンダードなどをまとめるなどして、知見の共有を図っています。コンサルティングやアドバイザリーとともに、資料を確実に守るための重要な専門的サービスです。

 Principles for Reformatting Library and Archival Collections
 http://preserve​.harvard.edu/gu​idelines/reform​attingprinciple​s.html
 Guidance for Digitizing Images
 http://preserve​.harvard.edu/gu​idelines/imaged​ig.html

● Cataloging・Discovery
 ハーバードの蔵書デジタル化事業では、”保存”に加えて、”目録”も不可欠のものとして考えられています。その資料についての情報を整理・登録し、利用者がそれらを見つけ出せる状態にしておかなければ、資料を保存する意味もデジタル化する意味もなくなってしまいますし、適切な目録がなければ資料自体も散逸してしまうおそれがあるからです。
 ハーバードの図書館では以下のようなDiscovery(目録やその他の検索ツールなどによって利用者が資料を発見できる)のためのシステムやサービスが提供されています。

・HOLLIS
 http://hollis.h​arvard.edu/
 図書館蔵書検索用データベースで、書籍資料のデジタル化データへのアクセスが可能。

・VIA
 http://nrs.harv​ard.edu/urn-3:h​ul.eresource:vi​axxxxx
 写真・絵画などのビジュアル資料についての目録データベース。デジタル化した画像があれば表示が可能。

・OASIS
 http://nrs.harv​ard.edu/urn-3:h​ul.eresource:oa​sisxxx
 書類・書簡などの文書資料についてのfinding aidsを集積し、検索やブラウジングを可能にしたデータベース。

 Imaging Service内にはBibliographic Servicesというセクションもあり、撮影する資料やそのマイクロフィルム、デジタル画像についての目録やメタデータを作成するという役目を持っています。Preservation Catalogerと呼ばれる人たちによって、例えば古い新聞資料をマイクロフィルム化するのであれば、どこからどこまでをひと区切りとするべきなのか、それらをどれだけのリールにどのように納めるのか、撮影に何コマ必要か、撮影終了後にその資料をどのように整理するのか、そして、それらをHOLLISなどの目録データベースにどう登録すべきであるのかが、撮影前にあらかじめ検討されるのです。
 デジタル化された資料の目録について、どのシステムを採用するのか(HOLLISか、VIAか、OASISか、それとも自館webサイトに自作するのか)、カタロギングの実務を誰がどう行なうかなどについては、それぞれのプロジェクトによって異なります。各図書館のカタロガーが行なうこともあれば、Imaging Serviceのカタロガーが請負うこともあります。写真資料であればWPCに写真専門のカタロガーがいますので、依頼することもできます。また、プロジェクトのためのカタロガーを期限付きで雇うこともあるようです。

● Digital Repository Service (DRS)
 作成されたデジタル画像を格納し、ネットで利用できる状態にするのが、Digital Repository Service (DRS)です。ハーバード大学図書館のOffice Information System(OIS)というシステム専門部署が管理・提供しており、ハーバード内の図書館やそのプロジェクトであれば必要に応じて使用することができます。例えば、Google Library Projectによってスキャンされたハーバード蔵書のデジタル画像も、このDRSに格納されており、HOLLISの検索結果を通してアクセスすることが可能です。
 このDRSは”デジタル資料におけるHD(ハーバード図書館の郊外保存書庫)”を意図して構築されており、どのようなフォーマットの資料でも、どのような内容の資料でもこのサービスを利用することが可能です。ただし、「利用者に公開することを意図したデジタル資料でなければならない」、「著作権・知的所有権を持っているか、処理されていなければならない」、そして「データベースやwebページなど何らかのかたちで目録が提供されていなければならない」といった条件が付いています。このサービスが、単なるファイルの置き場所としてだけではなく、利用者からのアクセスを促進し保証するものとして機能していることがわかります。閲覧のためのインタフェースとして、IDS(Image Delivery Service、ビジュアル資料用)、PDS(Page Delivery Service、書籍資料用)、SDS(Streaming Delivery Service、音声データ用)などもあわせて提供されています。AMS(Access Management Service)では資料へのアクセスをコントロールすることができ、学内メンバーのみに公開するものや特定の部局や受講生のみにアクセスを許可するものについて、PINSYSTEM(参照:【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】)が適用されます。
 このDRSでは、デジタル資料は永年保存されなければならない、という方針のもと、必要に応じてマイグレーション(データを新しい形式に変換していく)も行なっています。こういったメンテナンスのため、年間1Gにつき20ドルの使用料が課せられています。現物資料の保存・管理がただではないのと同じように、デジタル資料にも相応のコストと手間が必要である、という前提のもとでのサービスなのだろうと思われます。

●活用のためのサービス
 上記のほかに、作成されたデジタル画像を活用し、利用者に効果的に提供するためのサービスを、いくつかご紹介します。

 まずひとつめは、Templated Database(TED)と呼ばれるものです。これは、各図書館やライブラリアンでweb公開したいコレクションやその目録データがあるにもかかわらず、公開するための適当なシステムやデータベースを自前で構築することができない、という場合のためのシステムです。OISがあらかじめ構築してある”テンプレート”としてのデータベースシステムを用い、自館の持つ目録データを搭載して、独自のデータベースとしてwebで公開することができます。

 例:Milman Parry Collection, MCZ Ernst Mayr Library
 http://nrs.harv​ard.edu/urn-3:h​ul.eresource:mi​lparco
 Imaging-1
 

 各図書館やコレクションの特性・ニーズに応じて、フィールドなどをカスタマイズすることができますので、既存のHOLLISやVIAなどとはちがったデータベースを提供することができます。

 ふたつめは、Virtual Collections。これは既存のデジタル画像をテーマなどによって再構築し、公開するためのシステムです。HOLLIS、VIAのカタログなどから対象資料の書誌やリンクを取り込み、検索・ブラウジング・表示のためのインタフェースを備えて、webで提供することができます。これによって、各分野専門のキュレーターやライブラリアンが、すでにある蔵書のデジタル画像や書誌を使って、ヴァーチャルなコレクションを構築し、分類や解題作成などで利用者へ効果的に提供できるようになります。

 例:Dying Speeches and Bloody Murders
 http://broadsid​es.law.harvard.​edu/
 Imaging-2
 

 魅力ある資料と、ライブラリアン・キュレーターによる専門性や編集能力があれば、自館に機材やシステム担当者が存在しなくても、情報発信を効果的に行なうことができる、というサービスです。


2008年3月21日 (金曜日)

【38. 韓国古典籍コレクションデジタル化プロジェクト – ハーバードの蔵書デジタル化事業】

カテゴリー: - egami @ 19時14分47秒

 ハーバード大学をはじめとするアメリカの大学図書館では、図書館蔵書、特に著作権の切れたものや古典籍資料、写真・図版資料について、そのデジタル化とインターネットによる公開が非常に盛んです。ハーバード大学には図書館内の組織としてImaging Service(学内で撮影・画像作成を行なう)、Digital Repository Service(デジタルデータの保存・公開を請負う)など、専門の部署・サービスが設けられており、蔵書デジタル化事業を支援する”学内インフラ”として機能しています。
 今回は、イェンチン図書館における韓国古典籍コレクションを例に、ハーバード大学図書館における蔵書デジタル化事業の実際を追ってみたいと思います。

 National Library of Korea - Harvard-Yenchin​g Library Korean rare book digitization project
 fig korea-1
 

 現在、イェンチン図書館と韓国国立図書館との共同プロジェクトとして、韓国古典籍コレクションのデジタル化が進められています。これは、イェンチン図書館にあって韓国本国にない約500タイトルの古典籍をデジタル化するというものです。もともと韓国国立図書館では、韓国国内や日本・中国の韓国古典籍のマイクロフィルム化・デジタル化を継続的・網羅的に行なってきており、本プロジェクトはアメリカでの初の事業ということになるそうです。2006年にプロジェクトの計画と交渉がスタートし、実作業は2007年夏から3年間。撮影・デジタル画像作成はハーバード大学とイェンチン図書館で行ない、年間約6万ドルと見積もられる費用は韓国国立図書館が負担、画像データは双方がそれぞれ所有・公開する、という契約です。
 このプロジェクトの実作業は、以下のようなステップをとっています。

 Preservation 保存状態確認
 Digitizing 撮影・デジタル化
 Repository 格納・公開
 Cataloging 目録

● Preservation 保存状態確認
 ハーバード大学図書館には、Weissman Preservation Center(WPC)という貴重資料専門の保存部署があります。学内の古典籍や特殊資料(貸出用蔵書ではないもの)について、保存状態をチェックしたり、修復・保存のための処置を施したり、破損などをあらかじめ防ぐ措置をとったりといった活動を行なっています。

 Weissman Preservation Center(WPC)
 http://preserve​.harvard.edu/wp​c.html

 イェンチン図書館の韓国資料担当者によって撮影対象資料が準備されると、撮影に出されるより前に、このWPCからconservator(資料保存専門家)が派遣されてきて、現物の状態をひとつひとつチェックします。その結果、例えば破損のためそのままの状態では撮影に耐え得ない場合には、WPCに一度持ち帰られて修復処理がされたり、製本がきつくてページが充分に開けない場合には、WPCでいったん製本を解いてから撮影されたりといった対応がなされます。保存状態があまりにも悪すぎる場合には撮影中止の勧告がなされますが、本プロジェクトにおいてはこれまでそういった例はないようです。
 このWPCによる保存状態チェックという手順は、どのプロジェクトでも同様に行なわれます。

● Digitizing 撮影・デジタル化
 資料の撮影は、ハーバード大学図書館内の資料撮影専門部署であるImaging Serviceによって行なわれます。Imaging ServiceはWidener Libraryの地下にあり、ハーバード学内各図書館からの依頼によって、蔵書の写真撮影と印刷、マイクロフィルム作成、デジタル画像作成や、そのための資料保存・目録・メディア変換などを行ないます。

 Imaging Service
 http://hcl.harv​ard.edu/info/im​aging/

特に古典籍の類は外に持ち出して外部業者に撮影してもらうことができず、学内で撮影できることが理想的です。このImaging Serviceには大勢の技術者・画像専門家が勤めており、また複数種類の撮影機材やスタジオが設けられていて、質の良い写真・画像データを比較的低コストで作成してもらうことができます。ただ本プロジェクトに関して言えば、撮影者が韓国語を理解していないために、撮影のとばしやダブりがどうしても生じてしまうようです。
 撮影はデジタルカメラで行なわれ、TIFFやJPEGによる画像データが作成されます。

● Repository 格納・公開
 作成されたデジタル画像は、Digital Repository Service(DRS)が提供しているデジタルデータ保存システムの中に格納されます。これはハーバード大学図書館のOffice Information System(OIS)という部署が管理・提供しているサービスで、画像や音声などのデジタルデータを永年保存し、検索機能やブラウジング機能とともに利用者に提供するというものです。ハーバード内のどの機関でもどのプロジェクトでも、必要に応じて使用することができます。
 格納された古典籍資料のデジタル画像を閲覧する際に使用されるのが、Page Delivery Service(PDS)というシステムです。書籍形態のデジタル画像を、実際の書籍のようにページごとにブラウジングしていくためのインタフェースです。

 例:寶林寺事蹟
 http://nrs.harv​ard.edu/urn-3:F​HCL:1187878
 fig korea-1
 

 一般のwebブラウザでそのまま使用することができ、基本的なナビゲーション、ツールのほか、資料によっては目次情報の提供、全文テキストデータの検索、印刷用PDF作成なども可能となっています。(非ラテン文字資料、古典籍資料など使えないものもあります)
 なお、このDRSやPDSで表示されている簡易書誌は、イェンチン図書館の韓国資料担当者が準備したもの。PDS上で提供する際に必要なページ・ファイル番号などの管理用メタデータはImaging Serviceが作成したものです。
 また、本プロジェクトで作成された韓国古典籍資料の画像データは韓国国立図書館でも所有され、近年中に本国のWebサイトからも公開される予定である、とのことでした。

● Cataloging 目録
 蔵書のデジタル化事業にあたっては、Preservation(保存)の問題とともに、このCataloging(目録)が必ずセットとして取り組まれています。
 本プロジェクトの場合、HOLLIS(ハーバード図書館の蔵書検索データベース)内に収録されている韓国古典籍の書誌レコードに、各資料のデジタル画像へのリンクが記述されています。

 例:寶林寺事蹟
 fig korea-2
 

 また、プロジェクト名が書誌レコードに注記として新たに書き込まれていますので、本プロジェクトによってデジタル化された資料を一括検索することも可能です。(多くのデジタル化事業でこの手法が採られているようです。)

 National Library of Korea - Harvard-Yenchin​g Library Korean rare book digitization project

 本プロジェクトで撮影対象となった韓国古典籍資料は、すべてその書誌レコードがすでにHOLLIS内に登録済みでした。このため、実際にCatalogingとして行なわれた作業としては、イェンチン図書館の韓国目録担当者の手による、手動でのリンク情報・所蔵情報の編集のみにとどまっています。

 本プロジェクトでは、当初、各資料の目次情報を作成してナビゲーションのひとつとして提供する予定でしたが、韓国古典籍資料とその内容に詳しいスタッフを雇用することが難しく、実現できずにいるそうです。
 また、イェンチン図書館には本プロジェクトの対象資料以外にも、数多くの韓国古典籍資料や写真資料などが所蔵されています。そのデジタル化を実現させるために、現在その基金獲得を試みている、とのことでした。


2008年3月11日 (火曜日)

【37. HCL Technical Services】

カテゴリー: - egami @ 19時25分40秒

 3月初め、HCL(Harvard College Libraries) Technical Servicesを訪問・見学してきました。
 アメリカの図書館における業務は、パブリックサービス、テクニカルサービスの大きく2つに分かれます。貸出や参考調査など利用者に直に接しながらサービスを行なうのがパブリックサービス、資料を購入・収集したり、目録を作成して整理・管理したりというのがテクニカルサービスです。
 このHCL Technical Servicesでは、ハーバードのメインライブラリーであるWidener Libraryの資料受入・目録を最大の業務としています。また、学部生用学習図書館であるLamont Libraryの他、学内各図書館・図書室の目録業務をも引き受けており、ハーバード図書館におけるテクニカルサービスの専門部署として機能しています。

 HCL Technical Services
 http://hcl.harv​ard.edu/technic​alservices/

 当部署はハーバードのメインキャンパスから1.5キロほど離れた街中にあり、その場所(マサチューセッツ・アベニュー625番地)から「625」と呼ばれています。2000年に現在の位置に移転し、3階建てビル内の3階・地階を使用しています。テクニカルサービスを行なっている部署は、日本でもアメリカでも狭隘化が問題となり、たくさんの資料や物資に囲まれて手狭な中で仕事をしていることが多いものですが、当部署はフロア全体をテクニカルサービスだけでゆったりと使用しており、資料の仕訳けや搬送もはかどりそうな印象を受けました。この部署全体で、年間6-8万冊が、専任スタッフ75人と学生アルバイトにより処理されるとのことです。

 Widener Libraryの資料を整理する各ディビジョンは、資料の言語・出版国をもとに分かれています。English Division, French/Italian Division, Germanic Division, Spanish/Portugu​ese Division, そしてAsian/African Divisionです。これをベースに、例えばオランダや北欧の資料はGermanic Division、中南米諸国はSpanish/Portugu​ese Divisionというように担当されています。これら各Division内で、発注から受入、目録までが一連の流れとして執り行なわれます。
 Widener Libraryには各言語・国・地域を担当するビブリオグラファー(蔵書構築のために資料の選択を行なう専門職)がおり、どの資料を購入するかについてはこのビブリオグラファーが選書します。Technical Services各ディビジョンの発注担当者は、このビブリオグラファーの選書に基づいて発注を行います。資料が到着・納品処理されると、各ビブリオグラファーがこの部署を直接訪れ、現物を手にして中身を確認します。そして、それぞれの資料について「配置はWidener館内にするか、HD(郊外別地書庫)に直接送るか」「支払いにあたってFund(基金)はどれを適用するか」「参考図書に指定するかどうか」などを判断し、スリップなどによって指示をします。カタロガーや装備・搬送担当者はそのスリップに基づき処理をすることになります。
 今回の訪問では、アフリカ地域への発注・収書を担当している方のお話をうかがうことができました。アフリカのすべての国・言語をこの担当者1人でまかなっているとのことですが、安定した出版流通制度が整っていない国・地域が少なくなく、NGOを通して資料を入手するなど、ご苦労が多いようでした。

 目録登録はOCLCのWorldCatを使用して行なわれます。OCLC WorldCatにまだ書誌が存在しない場合には、最小限の書誌事項だけが記録されたミニマルレコードがOPAC内に作成され、資料はいったん地階のバックログ書架に保留されます。地階書架には管理担当者がいて、必要な資料はすぐに取り出せるように整理番号などによって整然と配架されます。例えば、ミニマルレコードを見た利用者からの資料のリクエストは、OPAC経由でこの管理担当者に届き、その資料は至急処理されるべく担当カタロガーに送られます。また、バックログに保留している資料の書誌がOCLC Worldに登場したかどうかが、専用プログラムによって自動的に検出され、これも管理担当者によって順次カタロガーに送られる手筈になっているとのことです。
 かつては10万冊がこのバックログ書架に保留され、問題となっていたようですが、数年前にその解消のためのプロジェクトが集中的に取り組まれています。現在では15000冊ほどがバックログとして収蔵されているとのことでした。

 HCL Technical Servicesには、Cataloging Support Servicesと呼ばれる部署が含まれています。ハーバード学内約30の図書室について、その目録業務を引き受ける、という部署です。対象は、規模が小さくて専任のカタロガーを配置していない図書室など。例えば、イェンチン図書館では、中国語・日本語・韓国語それぞれ専門のカタロガーが館内にいますが、東アジア分野の英語の資料についてはこのCataloging Support Servicesに目録業務を委託しています。7人のスタッフがほぼすべての言語・種類の資料を扱うことになりますが、スタッフでまかなえない言語については先述の各ディビジョンの協力によってカバーしている、とのことでした。

 現在のところ、HCLに属するすべての図書館がこの部署にテクニカルサービスを統合させているわけではありませんが、少しづつその範囲は広げられているようです。イェンチン図書館でも、カタロギングの部署をこの場所に移すかどうかが話題にされていますが、他からの独立性が高いCJK言語資料の処理を、キャンパス外に移してまで統合させるメリットがあるのかが、問題のひとつとなっているようです。例えば最近、このビルの1階にFine Art Libraryのテクニカルサービス部署が移転しましたが、美術関係資料の持つ特殊性からか、その業務・運営は3階の他のDivisionとは独立して行なわれているようでした。


2008年2月27日 (水曜日)

【36. オンライン資料を効率的に管理する – E-Resource Management】

カテゴリー: - egami @ 20時11分26秒

 【35. オンライン資料の検索を強力にサポート – E-Research@Harvard】でご紹介したE-Resourceや電子ジャーナルについて、利用情報・契約情報などを全学レベルで管理しているのが、E-Resource Management System(ERM)というシステムです。ハーバード大学図書館のDigital Acquisitions and Collections Standing Committeeというところが管理しています。

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 ERM User Guide
 http://hul.harv​ard.edu/ois/sys​tems/erm/erm-us​erguide/

 このシステムでは、E-Research@Harvardのサイトで提供されているオンライン資料、契約しているもの、フリーのものすべてについて、その購入・契約・提供についての情報を管理しています。学内各図書館のライブラリアンは、個々のオンライン資料について、利用条件、契約状態、利用期限や更新期限、トライアル・統計・SFX対応などについての情報、複数館による契約についての分担金・払戻金などの情報を閲覧することができます。これにより、例えば契約や手続きの進捗状況を追跡していったり、更新期限の迫ったデータベースについて注意を払ったり、更新する価値のあるものかどうかを継続して評価していったり、利用者に対して利用条件を案内したり、といったことが容易になります。webブラウザによって検索・閲覧が可能であることも、大きな利点であると言えるでしょう。
 また、ここに登録された各オンライン資料の書誌データ、URLなどに基づいて、E-Research@Harvardサイトその他からのリンクや、解説の表示などが、ユーザに提供されることになります。

 ハーバード大学におけるデータベースや電子ジャーナルなどのオンライン資料の契約について、かつてまだそれほど数の多くなかった頃には、専任のライブラリアン1名(および兼任のサポート3名)がすべてを引き受けていました。しかし、業務負荷が過剰に集中しすぎてしまい、その体制を継続することが困難になったといいます。また、契約データベースの支払いについても、各部局から分担金を徴収してプール金として確保するという、日本やアメリカでも多くの大学でとられている方法でした。が、ハーバード大学のような大規模大学では、分担の決定や交渉などのプロセスが複雑になってしまうこと、部局によって金銭事情(使用できる基金の出所・有無・規模、その基金の制限事項など)があまりにも違いすぎること、基金の送金にルール上の制約があったこと、価格の毎年の値上がりが激しすぎて学内合意を得るのが間に合わなくなってきたこと、などから、その方法には限界があったようです。
 現在では、各図書館や図書館群で必要と思われるオンライン資料の契約は、それぞれで手配をするということになっています。複数館での分担が適当であると判断された場合には、利用統計などによって、お互いに交渉・議論が行なわれることもあり、その分担金のやりとりは当事者同士で行なわれます。
 その契約する図書館のライブラリアンが、契約や利用に関する情報を所定のフォームに記入し、ERM担当の部署に提出することによって、ERMにその基礎データが登録されます。このフォームにはそのデータベースの解説文・利用条件・分野などが記述されています。契約が成立し利用可能になれば、そのオンライン資料はE-Research@Harvardで提供されることになります。必要に応じて、横断検索に加えたり、「FIND IT」ボタンからのリンクに対応させたり、HOLLISに書誌レコードやリンク先データを登録したり、といったようなことが処理されますが、どの分野の横断検索に加えるか、利用条件別の取扱い、解説情報の表示なども、ERMに登録されたデータに基づいて行なわれることになります。
 ERMには、有料契約のオンライン資料だけでなく、インターネット上にフリーで公開されているオンライン資料についてもそのデータが登録されます。各館のライブラリアンが掲載・案内するべきだと考えるオンライン資料があれば、所定のフォームを用いてその情報を記述・提出します。審査グループによって評価を得ることができれば、登録された情報に基づいてE-Research@Harvardにて案内が提供されることになります。

 以上のようなワークフローやフォーム、管理・契約にあたって各自が把握しておくべき要領などについては、専用のwebサイトが設けられており、学内ライブラリアン間での情報共有が図られています。

 E-Resource Management & Licensing – Harvard Libraries
 http://isites.h​arvard.edu/icb/​icb.do?keyword=k11228

 また、契約しているオンライン資料を継続的にメンテナンスし、確実な提供を保証していくために、Stewardshipという制度がとられています。これは、各オンライン資料に主たる監督図書館とそのコンタクトパーソンが設定されていて、世話役を担うというものです。利用者や他のライブラリアンからのリクエストやフィードバックはこの世話役である図書館や担当者に伝えられます。またトラブル発生時の報告・案内や、契約業者とのやりとりについても、監督する図書館が執り行うことになります。そして、その監督図書館やコンタクトパーソンがその世話役としての仕事をまっとうできるようなサポートもまた、上記の専用webサイトにて行なわれています。

 オンライン資料の契約・管理については、どの大学図書館でもその業務負荷がある特定の部署や担当者に集中してしまいがちです。このように集中を避けつつ、かつ情報の一括管理と共有が可能となる体制は、ひとつの参考になるのではないか、と思います。

 なお、このERMシステムは学内で独自に開発されたものですが、現在は業務用図書館システムと連携した新たなシステムの試用を始めているとのことです。


【35. オンライン資料の検索を強力にサポート – E-Research@Harvard】

カテゴリー: - egami @ 20時11分19秒

 電子ジャーナルやデータベースなどのオンライン資料を、いかに効率よく、判りやすく、スムーズに提供するかについては、どの大学図書館も常に頭を悩ませている問題だと思います。
 ハーバード大学では、学内で契約・提供されているあらゆるすべてのオンライン資料について、「E-Research@Harvard」という下記のポータルサイトから探し出し、たどり着くことができるようになっています。

 E-Research@Harvard
 http://eresearc​h.lib.harvard.e​du/

●Cross Search

 このポータルサイトで提供されているサービス・機能のうち、もっとも強力な機能のうちのひとつが、データベースの横断検索です。
 ハーバードでは非常に多くのデータベース – 文献検索データベース、統計データベース、分野別データベースなどを契約しています。E-Research@Harvardでは、MetaLibと呼ばれるシステムを使って、それら複数のデータベースを一度に横断検索することができます。
 ユーザはまず、下記画面の左側にリストアップされている分野別・種類別のカテゴリから、自分の目的に適うものを選びます。すると、その分野・種類に即した複数のデータベースが、画面中央に提示されます。

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 写真は「Music」を選択して、7件のデータベースが提示された例です。この中で、自分が検索したいデータベースをチェックボックスで選び、キーワードを入力して検索してみます。

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 "shamisen"で検索した結果が表示されました。
 右端に表示されている「Topics」「Authors」などの見出しのついたリンクは「ファセット」と呼ばれる機能で、これをクリックすることでしぼりこみ検索が可能です。検索結果の内容が自動的に分析され、その中に含まれているキーワード(kabuki, theater, tsugaruなど)や著者名などのうち、数の多いものが選ばれて、このようにリストアップされています。このリンクをクリックすれば、そのキーワードや著者名でしぼりこみ検索をした結果がすぐに表示される、という仕組みです。
 「FIND IT」という青いボタンをクリックすると、その論文の全文ファイルへのリンクや、図書・雑誌の所蔵場所を示す書誌・所蔵データへのリンクが示され、現物を入手することができます。これは「SFX」というシステムを使ったサービスで、京都大学の「Article Linker」とほぼ同じ機能です。
 「○」に「+」のマークがついているボタンをクリックすると、選んだ論文のタイトル・著者・雑誌名などのデータが、各ユーザ個人のバスケットに保存されます。保存したデータは「My Research」と書かれたリンクをクリックすることでいつでも参照できます。RefWorks(文献情報管理ソフト)へのエクスポートも可能です。

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 この機能は、ユーザ各自がログインしているときに利用可能なものです。
 E-Research@Harvardのトップページやその他の検索画面のページなどには、随所にログインのためのリンクが設けられています。これは【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】でご紹介したPIN Systemへのリンクであり、ユーザはここで自分の身分証番号とパスワードを入力することにより、ハーバード契約資料へのアクセスが認められるメンバーとして、認証を受けることになります。
 下記は、ログインしていなかったときの、横断検索画面の例です。

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 ハーバードの学内者でなければ使用できない契約データベースには、使用できないという意味の「○」に「/」のマークが表示されています。逆に、フリーで公開されているデータベース(AGRICOLA)やハーバード自身が作成して一般公開している目録データベース(Harvard Geospatial Library)にはチェックボックスがついています。フリーで利用できるデータベースについては、ハーバードの学内者でなくてもこの横断検索機能を利用できます。

●E-Resource

 ハーバードの図書館が契約あるいは提供しているオンライン資料、データベース、コレクションなどについて、キーワードやタイトルなどから探すことができるのが、「E-Resource」サービスです。キーワードなどによる検索で探すほか、リストアップされた分野名からたどり着くこともできます。

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 右側の「○」に「i」のマークをクリックすると、そのデータベースについての解説・利用条件・分野などの情報が表示されます。

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 また、ここでは契約・有料もののデータベースだけでなく、ハーバードで作成・公開している無料のデータベース、インターネット上でフリーで利用できるデータベース、他大学が作成した分野別リンク集や、ハーバード図書館のwebサイトや各館が作成した利用ガイド・分野別ガイドなど、じつにさまざまな種類のオンライン資料が含まれています。学内の各分野の専門家であるライブラリアンが、ここに掲載してユーザにおすすめできると考えたオンライン資料については、その出自や有料無料に関わらず、提供されています。上記リストのうち、「○」に「/」のマークがついていないものが、フリーで利用できるオンライン資料にあたります。

●LibX

 E-Research@Harvardで提供されているサービスとは別のものですが、「LibX」についてご紹介します。
 LibXはユーザ各自が自分のwebブラウザに組み込んで使うツールです。ヴァージニア工科大学で開発されたもので、各大学の図書館サービスシステムに合わせてカスタマイズしたものが提供されます。ハーバードの図書館webサイトからも、ハーバード大学のユーザ向けにカスタマイズしたものが配布されています。
 このツールをwebブラウザに組み込むと、さまざまな図書館サービス・情報検索に関する便利な機能を利用することができるようになります。
 例えば、ブラウザにインストールされたツールバーから、直接HOLLIS(ハーバードの蔵書検索)や電子ジャーナル用データベース、Google Scholarなどを検索しに行くことができます。

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 ほぼ同じ機能が、webページのテキスト選択後の右クリックメニューからも可能です。

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 また、Amazonの検索結果画面などにハーバードのマークが表示されるようになり、それをクリックすると、同じ本がハーバードの図書館に所蔵されているかどうかをHOLLISで確認できます。さらには、閲覧中のwebページの中にISSNやISBNが書かれてあれば、自動的にそれを認識し、HOLLISを検索するためのリンクを付与してくれます。

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【34. 日本のマンガを保存する図書館 – Cartoon Research Library, Ohio State University】

カテゴリー: - egami @ 20時11分12秒

 オハイオ州・コロンバスにあるオハイオ州立大学には、Cartoon Research Libraryという、マンガ資料専門の研究図書館があります。1977年、漫画家ミルトン・カニフのコレクションを受け継ぐ形で設立されました。マンガ(Cartoon)資料の包括的な研究用コレクションの構築を目的とし、25万点のマンガ原画、4万冊の図書、5万タイトルの雑誌・逐次刊行物、250万点の新聞コミック等の切抜きが保存されています。そのすべてがレアブックとして取り扱われており、事前予約による閲覧のみが可能となっています。
 そして、このコレクションの図書資料約4万冊のうち、約1万冊が日本のマンガ及びその関連図書だそうです。
 日本のマンガ資料の選書・収集及び研究を行なっているのが、当大学の日本語コレクション専門ライブラリアンであり、Assistant Professorでもある、Maureen Donovanさんです。

 Manga blog, Ohio State University Libraries
 http://library.​osu.edu/blogs/m​anga

 1995年、サバティカルで東京滞在中だったDonovanさんは、日本におけるマンガ文化の充実ぶりを体験し、いまのうちにマンガ資料の体系的なコレクション構築を始めておかなければならない、との思いを強くしたそうです。帰国後、Cartoon Research Libraryのライブラリアンと相談し、日本マンガコレクションの体系的・継続的な構築の開始が決定されました。
 資料購入のため、国際交流基金など各所からの資金援助を得たり、整理のため専門のカタロガーを雇用するなど、さまざまな努力が続けられてきました。現在では、このCartoon Research Libraryの利用者の多くが日本マンガ資料を目的としており、日本からの利用者も少なくないとのことです。
 このコレクションの特徴のひとつは、特定の作者・分野の資料を集中的・網羅的に収集すると言うわけではなく、日本におけるマンガの歴史・文化全体を概観できるよう、広範囲にわたる資料収集が行なわれている、という点です。ある作家の作品がすべて購入されているとか、ある雑誌が初号からすべてそろえられているという例はあまり多くありません。そのかわりに、歴史マンガ・政治マンガなどのさまざまなジャンルのマンガ、マンガによる社史・辞典・受験参考書、マンガの描き方を指南した本、同人評論誌や記念出版物、さらにはマンガの描かれた双六や子供用グッズ、映画化記念冊子に至るまで、日本の社会においてマンガがどのように浸透しているかを広く見渡すことができるコレクションになっています。どの本屋でも売っているような最近の単行本もあれば、「時事漫画」のような戦前・戦中の出版物や、原画・手稿資料のような非常に貴重な資料もあり、その幅広さには驚くばかりです。

 日本のマンガを収集することの難しさのひとつは、絶版になりやすい、という点だそうです。マンガそのものだけでなく、その関連書籍や参考図書となるような本も、刊行後すぐに品切れになってしまい、そのまま入手不可能となってしまう例が少なくないそうです。ISBNの付与されない出版物や限定・記念出版物が多いことも、その一因のようです。
 最近ではインターネットで探し当てることができたものも少なくないようですが、古書店やネット書店では海外に送ってもらえなかったり、支払方法が非常に限定的であったりといったことが問題になってしまいます。300円程度の本が、代理店を通したり、送料を負担したり、支払い手数料がかかったりして2000円近くにまでなってしまうこともある、とのことでした。支払方法が限定的であるために購入できない、あるいは割高になるというのは、日本語資料を扱う海外の図書館では大きな問題であるようです。
 また、マンガの選書・蔵書構築のための参考図書やツールが整備されていないことも、資料収集を難しくしているとのことでした。Donovanさん自身、まずその参考図書の収集やマンガのビブリオグラフィー(書誌学)の研究からスタートしたそうです。マンガについての研究目的の参考図書は、学術的過ぎて実用に即していない。実用できそうなマンガ特集のムック本などは、すぐに絶版になって入手困難になる。そもそも、マンガ雑誌の収録作品や記事を検索できるようなインデクスやデータベースが整備されていない、などの問題があるようです。

 コレクションの構築に伴い、その目録の作成が問題となります。オハイオ州立大学では、OSCARと呼ばれるOPACで「manga collection」というキーワードで一括して検索することが可能です。
 また、日本のマンガをカタロギングするための独自のガイドラインが作成されており、オハイオ州立大学の特殊コレクション目録部署のホームページに掲載されています。これは大学のカタロガー、マンガの目録を担当していた実務者、Donovanさんらの共同作業によるもので、改訂を繰り返して現在に至っているそうです。日本のマンガに特有の出版事情や形態、それに伴う書誌記述についての解説が含まれています。
 この日本マンガについての書誌レコードには、「Summary」と「Genre Terms」が記述されています。「Summary」は作品のストーリーなどをおおまかに英訳したもので、例えば以下のようなことが書かれています。

”A story about a wizard who works for the imperial court during the Heian period in Japan. He solves weird problems by using his magical knowledge based on the Ying yang cult.”

 また、「Genre Terms」は、日本のマンガに固有のジャンルを表す「Genre Terms」リストから、ひとつまたは複数を選んで記述するというものです。非常に多くの、かつ多岐にわたる用語がリストアップされています。LCの件名標目も併用するため、実際の書誌には以下のような記述がされることになります。

Oda, Nobunaga, 1534-1482 – Comic books, strips, etc.
Generals – Japan – Biography.
Historical manga.
War manga.
Samurai and ninja manga.

 日本人は必ず何かしらのマンガを読んだ経験があるため、どんなマンガであるか、どんなジャンルであるか、読者層は誰かなどがすぐに把握できる。しかしアメリカ人にはそれができないため、こういったSummaryやGenreの記述が欠かせない、とのことでした。

 Donovanさんは、Assistant Professorとして日本のマンガについての授業も担当しておられます。これは主に学部1年生を対象とし、毎回特定のマンガ作品について互いにディスカッションしあう、というものです。この授業を通して、学生同士が交流を深めたり情報交換のコミュニティを築いたりという効用があるそうです。Donovanさん自身、日本からの情報をまったくタイムラグなしに入手してくる学生たちに大いに刺激され、多くの有用な情報を得ている、とのことでした。
 そんなDonovanさんが危惧しているのは、ほとんどの日本の大学図書館・研究図書館がマンガを蔵書構築の中に有効に組み込んでいない、という点です。先述のようにマンガやその関連書籍はすぐに絶版になることが多い。一方、マンガを原典や資料として活用するような世代は今後増えつづけるはずである。日本でも保存・収集の取り組みが必要なのではないか、とのご意見でした。


【33. 日本語は日本語のままで – OCLCのCJKシステム】

カテゴリー: - egami @ 20時10分55秒

 OCLCでCJK(中国語・日本語・韓国語の総称)データの取扱いが始まったのは、1986年のことです。それまではアルファベット(ラテン文字)しか取り扱えなかったOCLCの書誌データベースにも、それ以降徐々にCJKデータが登録されるようになり、そのためのシステムも進化し続けてきました。
 2008年2月現在、WorldCatに収録されている日本語資料の書誌レコードは約248万件、そのうち日本語・日本文字データを含むのは約220万件。OCLCの業務用目録システムであるConnexion Clientでも、一般公開されているWebデータベースのWorldCatでも、日本語・日本文字は入力されたままに表示されていますし、検索も可能です。

 日本語書誌の例
 http://worldcat​.org/oclc/12316​6424

 OCLCで過去約25年にわたってCJKシステムの構築に携わってこられた小鷹久子さんにお話をうかがう機会を得ました。

 日本で病院図書館の開設に携わった小鷹さんは、オハイオ州立大学で日本語図書の整理を担当しておられた際、日本語図書についての書誌データが原綴(元の言語のままでのデータ表記)でないことに疑問を感じておられたそうです。そして、1983年にRLG(Research Library Group:アメリカの研究図書館によるグループで、2006年OCLCに統合)がRLIN(RLGの書誌目録データベース)をCJK対応したという発表を聞き、OCLCでも必ずこのCJK取扱いが大きな問題となるはずだと考え、OCLCに移り、以降CJKシステム構築の中心メンバーとして開発・改良に携わってこられました。
 当時、RLINで使われていた目録用端末では、キーボード上に漢字の部首などが並びそれを組み合わせて入力するという、CJK専用の機器が使われていましたが、1986年にOCLCが提供開始した目録用端末は、標準の端末にCJK文字を取り扱うためのECIボードを組み込み、アルファベットのキーボードのままでヨミなどからCJK文字が入力可能、というものでした。標準の目録用端末をそのまま使えるという利点はあったものの、やはり専用ボードを要するためコストが高く、当初は10館ほどの東アジア研究図書館のみによる試用からスタートしました。
 その後、図書館全体のデータベース化が進み、どの図書館でもCJK資料の処理だけをいつまでも先延ばししておくわけにはいかなくなったこと。ハーバード・イェンチン図書館などの大規模館が参加するようになったこと。CJKワープロ機能など、ユーザ館のニーズに応えるシステムをOCLCで開発していったことなどから、次第にCJKレコードの規模も参加館も増えるようになってきたとのことです。

 1991年、初めてWindows端末を見せられた小鷹さんは、Windows対応の目録システムに着手し始めました。CJK言語とWindowsシステム、ともにグラフィカルであるという共通点から、CJKがWindows対応システム開発の実験台となったようです。OCLCにCJK User Groupが発足したのもちょうどこの年でした。1992年、CJKPlusというWindows用アプリケーションが開発されましたが、当時はまだWindows自体が普及しておらず、その使い方からCJKユーザに伝えていく、といった段取りもあったそうです。またその間、CJKユーザの協力と要望を受けながら、カード目録印刷機能、オンラインCJK辞書、オンラインヘルプなどが開発されていきました。
 1998年に発表された「OCLC Access suite」は、それまでのような目録専用端末を使うことなく、Windows機にインストールすることで利用できる目録システムアプリケーションソフトでした。参加メンバーであれば無料で受け取れるこのソフトには、CJK目録取扱い用ソフトやCJK書誌データをローカルで表示できるソフトもデフォルトで含まれており、これによりCJKユーザだけが別途費用を負担したりシステムを追加したりということが不要になりました。
 その後、ホストシステムの改造に伴い、2002年からConnexionという目録作成システムが用いられています。そのWidows型のプログラムに移行したCJK機能では、文字入力にMS-IMEが採用されています。これは、どの図書館でも少ない端末で複数の言語を取り扱う必要があるという現状を鑑み、Windows機であればどの言語でも取扱いができるように、とのことからだそうです。

 1995年、早稲田大学が日本語書誌レコードを一括して提供し、以降計3回の一括提供、2004年からは月1回の定期的な提供が行なわれています。2007年1月までに早稲田大学からOCLCに提供された書誌レコードは約75万件に及んでいます。そのデータの変換・転送には、日本側代理店である紀伊国屋書店が携わったとのことでした。その紀伊国屋書店は現在、米国のいくつかの東アジア図書館に対して、図書現物の納品とともに書誌レコードを作成・提供するというサービスも行なっているようです。1996年にはハーバード・イェンチン図書館のカード目録による遡及入力がOCLCへの依頼という形で行われています。RLINとの書誌レコード交換により、TRCや慶応大学による日本語書誌レコードも収録されてきましたが、2007年にRLINのCJKレコードがすべて収録されて以降は、TRCからの定期的な書誌レコード提供も開始されています。いずれも、日米では書誌の作成要領や内容が異なるために編集を必要としますが、各図書館での業務軽減に大きく貢献していると言えるでしょう。
 OCLCの日本語書誌レコードは、同じ番号を持つMARCフィールドを2つ設け、一方に日本文字データ、もう一方にローマ字化されたアルファベットデータを記述するという形をとってきました。最近では、国際化・多言語サポートの広がりに伴い、この規制も緩和されてきています。また、RLINでは日本文字による書名などは単語ごとに分かち書きされていましたが、OCLCでは分かち書きがなされていません。現在の目録用システムであるConnexionではCJK文字1文字づつを”単語”とみなし、例えば「日本史学会誌」であれば「史学」でも「学会」でも「会誌」でも検索することが可能になっています。
 ただ、文字の取扱いには若干の問題が残ってもいます。例えば「江戸」という言葉を日本文字で検索しても書誌レコードはヒットしません。「戸」という字について、日本文字で一般的な「戸」(上の棒が横一直線)ではなく、上の棒が左肩下がりの「戸」が使用されているためです。これは、ALA内のグループによって、JACKPHY(日本語、アラビア語、中国語、韓国語、ヘブライ語)文字についてはUnicode文字すべてを使うのではなく、従来用いられていたMARC-8と呼ばれる文字集合のみを用いる、というルールが決められたことによるそうです。したがってMARC-8内に含まれていない日本文字の「戸」は使用されないことになります。OCLCのデータベース自体はUnicodeに対応していますが、記述に際して採用される漢字には制限がある、ということのようです。

 OCLCのCJKシステムの発展は、参加館である各東アジア研究図書館のライブラリアン・カタロガー、早稲田大学・紀伊国屋書店などの日本側参加館・代理店やそのカタロガー、OCLC内外のシステム開発者・ライブラリアンなど、たくさんの人々によるコラボレーションの賜物である、と言えるでしょう。
 また、小鷹さんのお話の中で、「書誌とは、現物に行き着くためのものであるから、現物を見ていない人が、書誌を見ただけでその現物を思い描くことができるように記述されなければならない。そのためには、規則に従って事実を記すというだけではなく、そこにどんな情報を収めるべきかについて考えなければならない。書誌作成はアート&サイエンスである。」というお言葉が、とても印象的でした。


【32. 世界最大の図書館情報サービス – OCLC】

カテゴリー: - egami @ 20時10分47秒

 2月半ば、オハイオ州・ダブリンにあるOCLCを訪問してきました。
 OCLCは、コンピュータ・ネットワークを通して、書誌情報、オンライン共同目録システム、ILLシステムなど、各図書館での活動に必要な情報・サービスを提供している非営利機関です。1967年の設立当初はオハイオ州内だけを対象としたサービスを行なっていましたが、現在はアメリカ国内だけでなく、ヨーロッパ、アジア、太平洋地域など世界112カ国・6万館以上の図書館に対してサービスを行なっています。代表的なサービスである目録データベース・WorldCatは、2007年3月現在で、書誌レコード8000万件、所蔵レコードは13億件を収録しています。

 OCLC
 http://www.oclc​.org/
 WorldCat
 http://worldcat​.org/

 ダブリンにあるOCLC構内の3つの建物では約1000人のスタッフが働いていますが、ほかにも全米各地、及び世界数ヶ所に拠点となるオフィスがあります。
 参加館には、データベースの利用だけを契約しているところもあれば、すべての目録作成をOCLCで行なうなどのGoverning memberとして参加するところもあります。日本でOCLCにGoverning memberとして参加しているのは、早稲田大学、慶応大学、愛知淑徳大学などの7館です。

 今回の訪問では、契約によるCatalogingの部署、Language Setと呼ばれるサービスの部署を案内していただきました。

 OCLCの書誌目録データベースはオンライン共同目録システムであり、実際の目録業務は各参加館のカタロガーによって行なわれていますが、このCatalogingの部署では、各館でまかないきれない目録業務をアウトソーシングとして受注しています。OCLCのデータベースに登録する目録業務を、OCLC内で請け負っているのですから、ある意味もっともリーズナブルなあり方と言えるかもしれません。
 ここではあらゆるタイプの資料が書誌・目録作成の対象となっています。私が拝見した限りでは、古い時代の書籍や写本、音楽スコアや絵本、テクニカルレポートや簡易パンフレットのような灰色文献、DVD・VHSのような視聴覚資料などが扱われていました。また、約50人いるカタロガーの中には、アジア、ヨーロッパ、イスラムの各種言語を理解する人たちが含まれていて、あらゆる言語の資料に対応しているとのことでした。
 図書館からは、情報源(標題紙・標題紙裏)のコピーが郵送されてくることもあれば、それがスキャニングイメージデータとして送られることもあります。カードケースがそのまま送られてきて遡及入力が行なわれることもあります。もちろん、資料の現物も多数送られてきていました。
 しかし、この部署でも困難なのは、やはり件名標目の作成であるようです。特に英語以外の言語の資料の場合には、何人かいるネイティヴのカタロガーが中身を読んで、理解してから件名を作成する、ということでした。

 Language Setは、公共図書館が対象の代理選書サービスです。英語以外の言語の資料を蔵書に加えたいが、その言語の専門家がいない、という公共図書館に対して、適切と思われる図書をセレクトし、まとまった数のコレクションとして、その図書の現物及び目録情報を提供する、というものです。現在14ヶ国語(日本語含め)に対応しています。
難しいのは、図書館や言語によってニーズが異なる、ということだそうです。例えば日本語資料の場合、対象となる利用者層が”日本から出張などで来ている家族で、日本の情報をキープアップしておきたい”ということから、生活実用書や子供用・教育関係図書がニーズとなるが、言語によっては”アメリカに移住し、職を得て、市民権を得るにはどうしたらよいか”といったことが中心になるようです。
 当サービスでは「この図書館には日本語の本があります」というサインや、案内用Webページの作成も行なっています。

 また、アジア・パシフィック地域担当のAndrew H. Wang氏、Shu-En Tsai氏にお話をうかがうことができました。
 Wang氏によれば、Googleやその他のサーチエンジンの勢いは誰にも止められない。図書館の組織化された知識の蓄積は、それらに勝り得る。OCLCの使命は、各図書館が固有に持っている情報を、Webに載せてアクセス可能化することによって、ユーザを図書館に導くことである、とのことでした。


【31. Sackler Museumの日本古典籍資料】

カテゴリー: - egami @ 20時10分38秒

 Arthur M. Sackler Museumはハーバード大学内にある美術館・博物館群のひとつです。美術品を収集している美術館としてはほかにFogg Art Museum、Busch-Reisinger​ Museumなどがあります。Foggが西欧、Busch-Reisinger​が中欧・北欧をメインとしているのに対し、Sackler Museumでは東洋・イスラム世界を中心に収集・研究・公開を行なっています。

 Arthur M. Sackler Museum (Harvard University)
 http://www.artm​useums.harvard.​edu/sackler/

 2月6日、朝日新聞文化欄に、ハーバード大学Arthur M. Sackler Museum所蔵の日本古典籍資料についての調査報告が掲載されました。近世以前の書籍資料である絵本、画譜、草双紙の自筆稿本などについて、九州大学の先生方が訪問調査なさったもので、約300点の簡易目録作成が行なわれました。私もその現場で目録作成のお手伝いをさせていただきましたが、それぞれ見た目に美しく面白いだけでなく、保存状態のとてもよいものでした。書誌学的にも価値のある珍しいものばかりのようで、調査中の先生方もしきりに感嘆の声を上げておられました。

 これらは、それまで学内でもその価値があまり知られておらず、Sackler Museumロッカーの中に静かに保管されていました。整理や箱詰めによる保存処置はされていたものの、書籍形態であったため、浮世絵のような美術資料に比べてどうしても調査等が後回しになってしまっていたようです。
 海外ではこのように、日本の古典籍資料が思わぬところに残されていることが少なくありません。日本または東アジア研究専門の図書館でない、資料の内容・価値のわかるライブラリアンがいないなどの理由で整理されていなかったり、今回の例のように美術館であるがために書籍形態の資料がそれほど省みられなかったり、また、長い間中国語資料とごちゃまぜになったまま所蔵されていたりという例もあります。
 それらが、場合によっては日本に保存されているものよりも保存状態がよい、ということも珍しいことではありません。欧米の資料保存専門家には、西洋の資料についてだけでなく、日本・中国などアジア資料の修復・保存についても積極的に知識・技術を習得している人が大勢います。彼ら・彼女らによって、日本ではあまり適切に扱われていない資料が、充分にケアされて保管されている例がたくさんあります。また、価値を評価できるスタッフがいないために、とりあえずすべての資料がひとつひとつ丁寧に取り扱われている例。その資料を使うような研究者・利用者がいないために、長い間人の手に触れられず、そのために保存状態が良いという例。日本の図書館では無造作に処分されてしまっていたような袋(売るときに元の本を納めていたもので、絵入り・色刷りのものもある)が大切に保管されている例も、いくつか拝見しました。また、戦後にこのような古典籍資料を海外へ売り出した当時の書籍取扱者が、特に良い本を取り揃えて送った、というような事情もあったようです。

 これまで知られていなかったこのような資料は、以前は現地へ赴かなければその詳細がわからないということがほとんどでしたが、最近ではホームページ上でその解題や簡易目録を見つけることができたり、総合目録データベースの中に現れたり、一部や全文をデジタル画像として見ることができたりということが増えてきたようです。このようにさまざまなかたちの情報発信によって、必要な資料の存在が必要な人の目に触れるようにすること。そして、その存在を認めることができた資料は、後世の利用者のため、適切な状態で保存することが重要だと思います。

 最近になって、Sackler Museumにあった和装本のうち、幕末期以降の書籍形態の資料の一部がHarvard-Yenchin​g Libraryに移されることになりました。これらは近いうちにデータベースへの目録登録がされ、ひとつひとつの大きさに合わせて作られた箱に納められ、館内の貴重書専門の部署によって適切に管理・提供されることになる予定です。


2008年2月14日 (木曜日)

【30. 探しやすい書庫を目指して – Widener Library書庫のサイン・フロアマップ】

カテゴリー: - egami @ 14時08分31秒

 1月末、ハーバードのメインライブラリーであるWidener Libraryの書庫フロア(利用者が入庫可能)に、新しいフロアマップが設置された、という案内が、学内の図書館ニュースとして流れました。
 各フロア毎に設置された新しいマップは、蔵書の分類区分ごとに色で塗り分けられ、どの分野の本がどこにあるかがすぐに参照できるように工夫されています。Widenerの書庫内には、院生・教員用に割り与えられた予約制のキャレルがたくさん設置されているのですが、そのキャレルの位置もマップ上に記されています。
 このようなマップ、サイン、案内ガイド類を作成しているのは、Widener内での書庫管理・蔵書整理を専門に行なっているStacks Divisionというところです。この部署は、貸出部署・ILL部署・入館管理の部署とともにWidenerでのAccess Serviceを担っています。

 Widener Libraryはハーバード大学のメインライブラリーであり、アメリカで最古、世界でも最大と言える学術図書館です。郊外に保存書庫(Harvard Depository)はありますが、それでも300万冊を実際に館内書庫に収蔵しています。書庫は地上から地下までで計10フロア。さらには隣接するPusey Libraryの地下書庫をもその一部として使用しており、両館は地下通路で接続しています。棚の数は総計約9万棚で、その長さは80kmに及びます。
 図書を分類・配置するための請求記号には、現在のLC分類による番号と、かつて使われていた旧Widener分類による番号との2種類があります。両者は書庫内で別フロアに分かれることなく、同じ分野の図書が近くに配置されるよう、新分類の書架と旧分類の書架とが分野ごとに隣接して並んでいます。

 "Organization of Widener Collections”
 http://hcl.harv​ard.edu/librari​es/widener/docs​/wid_stacks_org.pdf
 "Call Number Location Charts”
 http://hcl.harv​ard.edu/librari​es/widener/docs​/wid_loc_chart.pdf

 このように複雑かつ広大に思えるWidener Libraryの書庫ですが、実際に利用者として入庫し、本を探してみると、思った以上にサインやマップがわかりやすく、目指す書架にたどりつくための工夫が随所になされていることがわかります。そこで今回は、利用者がスムーズに本を探すことができるように、どのような工夫・配慮がされているかを考えてみました。

・清掃・換気が行き届いている。
 廊下や書架間の通路は決して広いものではありませんが、その通路にゴミ箱やイス・テーブル、ましてや未整理の箱やケース類が放置されているということがありません。そのため見通しがとてもよく、目指す場所がどの辺りにあるのかをすぐに見つけることができますし、書架間の移動に手間取らなくてすみます。また、最近改装されたという大理石製の床ですが、塵や紙くずの類がまったく落ちておらず、書架にもホコリがほとんどありません。さらに、これも改装とともに導入されたという新しい換気システムが書庫内全域に設置されています。利用者は快適に保たれた空間の中で、落ち着いて、本を探すことに集中することができます。

・本が整然と並んでいる。
 書架の本はすべて整然と並んでおり、横倒しにされたり、重みで変形していたり、無理やり押し込まれたりということがありません。ブックエンドによってきちんと固定されているので、傾いていることすらほとんどありません。本の背表紙が前後にずれているということもなく、一直線に並んでいるので、目指す本の請求記号を目で追うことだけに専念することができます。
 書架の整理はStacks Divisionの学生アルバイト(50人〜90人程度)の仕事です。彼らは借り出された本を棚に戻すだけでなく、定期的に書架をチェックして、本を整然と並べたり、余裕を持たせるために移動したり、保存状態を確認して修復・保存処理のために抜き取ったりといったようなことも行います。また、正確で適切な配架・整理を行なうことができるよう、充分な量のトレーニングを受けます。たくさんのトレーニング用教材も準備されており、請求記号の構成と実際、本の並べ方、動かし方、効果的な配架準備、ブックトラックの動かし方に至るまで、さまざまなことが指導されます。これらの実践的で細部にわたる指導により、本を正確に並べることだけでなく、短時間でそれを行なうこと、適切な保存状態を保つことが実現されています。

・書架サインが、段階を追って導くように工夫されている。
 書架サインには、新分類のものと旧分類のものがありますが、どちらもレイアウトはまったく同じで、かつまったく異なる色(新分類=白地に臙脂色、旧分類=黄色地に黒)が使われています。書架から廊下側に張り出すように掲げられたサインには、アルファベットだけが大きく太く書かれ、しかもその開始位置だけにしかありません。これにより、利用者はすべての書架のサインをひとつひとつ確認する必要がなく、自分の探している分類のアルファベットを一目で見分けることができます。
 各書架の側面に掲示されたサインには、分類の第1段階であるアルファベットが大きく太く、第2段階である数字は控えめに書かれています。その下には、各番号ごとの分野名の細目がリストアップされています。利用者は該当する書架サインを目で追いながら、自分がいる場所が目指す分野の書架であるかどうかを確認することができます。

・サインの色やデザインが統一されている。
 書架サイン以外の、フロアマップ、階数表示、階段や行き先の案内、トイレや立ち入り禁止の案内など、すべて同じ臙脂色で、同じフォントが用いられています。ちょっと迷ったときに辺りを見回すと、すぐに臙脂色が目にとびこんできて、そこに目を向ければよい、ということが一目でわかります。
 また、要所要所に、まったく同じデザインの表・地図が掲示されています。場所によってそのデザインや色が変わっているということがないため、戸惑わずにすんでいます。

・情報が盛り込まれすぎていない。
 全館のフロアマップには、そこにどんな分野の本があるか、コレクションがあるかなどは一切かかれず、かわりに頻繁に使われるコピー機や検索用端末がくっきりとした目立つ色で示されています。分野やコレクションの案内は、別のガイドや表にその役目を譲っています。
 また、階段や通路を示すサインには、その行き先だけが示されており、やはり分野やコレクション名などは案内されていません。
 各フロアにどの分野・コレクションがあるかを示したハンドアウトでは、「この階のこのエリアにある」というところまでが示されるにとどまり、そこから先の詳細は各書架サインを参照することになります。こちらには逆に、コピー機や検索端末の情報は記されていません。

・コピー機・検索端末などが各フロアの同じ位置にある。
 各フロアのコピー機・検索端末が、階は異なっていても同じ位置に配置されています。これにより、コピー機・検索端末を探すのに迷わないですむだけでなく、それらを目印にしていま自分がどのあたりにいるのかを把握することもできます。


【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】

カテゴリー: - egami @ 14時08分10秒

 ハーバード大学には、図書館に限らず、さまざまなWebサービス・Webコンテンツがあります。それらサイトへのアクセスを個々のIDとパスワードで管理しているのが、Harvard University PIN Systemです。

 Harvard University PIN System
 http://www.pin.​harvard.edu/

 かつて7月の記事(7. Harvard Depository)でも少しご紹介しましたが、例えば郊外書庫にある図書を注文したり、自分がいま借りている本を確認したりというときには、蔵書検索システムであるHOLLISから「MyHOLLIS」にログインします。

 fig1:蔵書検索システム HOLLIS
 

 HOLLISからログインするために「MyAccount/Renew​」のリンクをクリックすると、画面はいったんPIN Systemの画面にジャンプします。

 fig2:PIN Systemログイン画面
 

 この画面が現れたら、自分のIDとパスワードを入力します。このログインシステムは学内のほぼすべてのWebサービスに共通のものです。どのサービスでいつログインするときにでも、いったんこのPIN Systemの認証を通過することになります。
 また、IDは身分証番号(学生証・職員証番号)と同じもの。パスワードは身分証の発行と同時に手続きが行なわれます。
 正しいIDとパスワードが入力されると、いったん次のような画面が表示されます。

 fig3:ログイン成功画面
 

 fig4:ログイン後は、もとのサービス画面に戻る
 

 ログインが成功した後は、MyHOLLISならMyHOLLISのサービス画面に戻ります。

 このPIN Systemによる認証手続きは、学内のほぼすべてのWebサービスに共通して用いられています。

 fig5:MyHarvard
 

 fig6:コース・ウェブサイト
 

 fig7:HARVIE (職員用の人事給与情報などを取り扱うサイト)
 

 fig8:学内ライブラリアン専用の業務情報サイト
 

 fig9:大学で契約しているデータベース・電子ジャーナル類
 

 大学で契約しているデータベース・電子ジャーナルへアクセスするときにも、このPIN Systemによる認証を受けます。この認証画面は大学外のネットワークからもアクセス可能ですので、ハーバード大学の構成員であれば、自宅や海外からでも変わらず契約データベース・電子ジャーナルを利用することができます。

 学生生活にもっとも密着したサービスが「Crimson Cash」と呼ばれるサービスです。これは学生・職員各自が自分の身分証番号をアカウントとして口座を持ち、現金やクレジットカードでその口座にあらかじめ入金しておいて、学内のカフェ・売店などで身分証を用いて支払いをする、というサービスです。

 Crimson Cash
 http://www.cash​.harvard.edu/

 fig10:Crimson Cashにログイン後の画面
 

 このCrimson Cashは学内各図書館でのコピー料金、プリントアウト料金の支払い、ときには図書返却を延滞したときの罰金の支払いにも使われます。


【28. Google Library Project – University of Michiganにて】

カテゴリー: - egami @ 14時07分59秒

 Google Library Projectは、Googleと提携図書館による蔵書スキャン・インデクシング事業です。Googleが各提携図書館の蔵書をデジタル画像として読み取り、データ化して、全文検索を可能にするというもので、著作権の切れたものや出版者許諾の得られた図書などについては、全文または一部を無料で見ることができます。
 2004年12月、Googleが最初に発表したLibrary Projectの提携先は、Harvard、Stanford、New Yorl Public Library、Oxford、そしてUniversity of Michigan(以下UM)の5つでした。他の多くの提携図書館が、その提供資料を著作権の切れたもの、評価・選択したものに限っているのに対し、このUMでは内容・分野、年代、著作権の有効・無効に関わらず、ほぼすべての図書館蔵書をGoogleに提供しています。2004年の試行段階を経てスタートし、2005年にはGoogle Print(当時)サイトから、2006年にはUMからも順次提供が始まっています。

 University of Michigan Library
 http://www.lib.​umich.edu/
 MBooks - Michigan Digitization Project
 http://www.lib.​umich.edu/mdp/
 Google Books Library Project
 http://books.go​ogle.com/google​books/library.h​tml

 1月末、このUniversity of Michiganを訪問し、Google Library Project担当者の方にお話をうかがうことができました。

●概要
・対象となるのは、学内図書館ほぼ全蔵書である約700万冊。2004年から6年間かけてスキャンしていく予定。現在、週あたり3万冊のペースで処理されており、いまのところスケジュールとしては予定通りである。(プロジェクト終了後の蔵書については未定)
・スキャンした後、資料の画像データとOCR処理されたテキストデータが、GoogleからUMに提供される。UMではこのデータを「MBooks」として利用者に提供している。
・蔵書の全文テキスト検索は、原則としてすべての資料で可能。全文閲覧は、著作権の切れたもの、及び、パブリック・ドメインのものについてのみ可能。
・参加への理由。(1)蔵書への検索・アクセスの新しい形をユーザに提供できる。(2)資料保存のための大規模な媒体変換が可能になる。(3)蔵書をデータとして活用することで、単なる蔵書本体へのアクセスを越えた、新しい図書館活動を期待できる。
・あくまで図書の検索・発見のためのものであって、全文をオンラインで無料提供することが第一目的の事業ではない。また、紙媒体としての資料の購入が減ることはないし、提供を減らすこともない。

●対象資料
・学内700万冊の、製本された印刷資料のほとんどがスキャンされる予定。
・対象とならない資料は、製本されていない資料(新聞、パンフレット、地図など)。印刷されていない資料(写本など)。サイズの大きい資料。破損などの理由でスキャンに耐えられない資料。
・2004年発表当時は、プロジェクトのスタートと発表をスムーズにするため、協議・検討に時間をかける必要のある図書館(法学図書館、貴重書図書館など、学内であっても別組織である図書館)は対象としていなかった。が、法学図書館も貴重書図書館も姿勢としては積極的であり、現在では蔵書スキャンを実行する予定である。

●スキャン・データ化作業
・出納・運搬・スキャン・データ化などにかかるすべてのコストを、Googleが負担する。スタッフの雇用もGoogleが行なう。
・スキャンは保存書庫であるBuhr Shelving Facilityの蔵書から開始され、順次、各部局図書館の蔵書にとりかかる。
・UMのあるAnn Arbor近郊の場所に、Googleが専用の建物を設け、作業場としている。(他の提携図書館の場合は、遠隔地の拠点作業所まで資料を運搬してそこでスキャンされる、というようなところもある。)
・スキャンに関する技術、方法、規模は公には発表されておらず、すべて秘密である。スキャン作業場がどこにあるかについては、UMの担当者にも一切知らされていない。
・Googleはスキャンにあたって、製本を解いたり壊したりすることはない。通常の図書館利用と同様に(慎重に)取り扱う。
・Googleスタッフによる資料の取り扱いとスキャン方法については、UM図書館・保存部署の資料保存の専門家が事前にチェックし、問題ないことを確認済みである。
・スキャンにあたっては、まず書架にあるすべての蔵書がGoogle作業場に持ち込まれる。そこで、物理的条件などからスキャンが行なえないもの(例:破損が激しい、紙質がもろい、製本が弱い、サイズが大きい、対象外資料(写本・非製本)など)があれば、スキャンされずに図書館に戻される。図書館は戻されてきた資料について、「製本・修復後再送する」「自前でデジタル化作業を行なう」などを判断する。
・スキャンが可能かどうかの判断は、その本が古い時代のものであるか、貴重であるかどうかよりも、物理的状態やサイズによるところが大きい。
・スキャンのために持ち出された資料は、その資料が現在どこにあるかがOPACに表示される。2-3日から2週間で再び元通り利用可能になる。

●画像データ・テキストデータ
・GoogleからUMに提供されるのは、画像データ(600dpiのTIFF。図版があれば300dpiのJPEG2000(カラー&モノクロ))、OCRで読み取ったテキストデータ(UTF-8)。各ページに関するメタデータ。
・日本語の資料も同様にOCR処理される。読み取りの正確さは、言語・文字種よりもむしろ、紙質や印字の状態、画質がクリアかどうかなどに左右される。
・UMにデータが届くのは、資料スキャンから3-6ヶ月後。

●MBooks
・UMのデジタル化された蔵書を「MBooks」と呼んでいる。
・MBooksは、UMのOPACであるMirlynから検索可能である。
・MBooksのシステム(利用者用閲覧インタフェース、OPACへの自動リンク、著作権管理データベースなど)は、館内の電子図書館の部署で開発したものである。
・Googleに図書を送るときに、書誌レコードとアイテムレコードを添付する。UMに画像データ・テキストデータが届き、MBooksのサーバに格納されると、OPACの書誌レコード・アイテムレコードに各デジタルデータページへのリンクが自動的に形成される。
・Pageturner(利用者用閲覧インタフェース)では、資料内の全文テキスト検索、画像・テキスト閲覧、現物の所蔵場所確認などができる。資料間の横断検索や履歴保存などは今後の課題である。

 MBooksおよびGoogle Books Searchの例
 「Pleasantries of English Courts and Lawyers」(英語・全文閲覧可)
 http://hdl.hand​le.net/2027/mdp​.39015063810850​
 http://books.go​ogle.com/books?​vid=UOM390150638108​50
 「5年後、10年後の”経営環境”」(日本語・閲覧不可)
 http://hdl.hand​le.net/2027/mdp​.39015067608540​
 http://books.go​ogle.com/books?​vid=UOM390150676085​40&pgis=1

●著作権
・蔵書の全文検索は、原則としてすべての資料で可能。全文閲覧は、著作権の切れたもの、及び、パブリック・ドメインのものについてのみ可能。
・蔵書をデジタル化することによって、資料の購入が減ることはないし、利用者への提供を減らすことも、学生のテキスト購入に影響を与えることもしない。
・権利情報のデータベースを構築し、どの資料はどのように提供すべきか/しないべきかを判断・蓄積している。権利状態は「パブリックドメイン」「米国内ユーザに対してパブリックドメイン」「著作権有効」「著作権者不明」「学内のみ利用可能」「オープンアクセス」など。理由は、「書誌から判断」「契約による」など。
・著作権状態の調査・判断は、UM図書館の専門スタッフ(知的所有権の専門家)が行なっている。Googleの判断や公開状態に倣っているというわけではない。
・著作権に関する調査は継続して行なわれており、その著作が公開可能と判明した時点で随時公開していくかたちになる。
・UM出版局とはまだ提携できておらず、公開の許可はもらっていない。

●その他
・UMはパブリック大学(州立)であり、このGoogle Library Projectについても出来る限りオープンにするよう、MBooksのWebサイト(http://www.lib.​umich.edu/mdp/)でドキュメント・FAQなどを適宜公開している。
・Google Library Projectとは別に、デジタル化による保存・公開事業も、引き続きこれまでどおり力を入れてやっていく。Googleの技術・取り扱いにそぐわないようなレアブックコレクションのデジタル化など、現在までに15000冊を実現している。
・このプロジェクトは「資料を利用可能にする」という、図書館の持つ中心的なミッションのひとつを実現させるものである。UMでこのプロジェクトと同じことをやろうとすると、1600年はかかることになり、それが6年で実現できることの意義は非常に大きい。そういった意味でも、日本でこういうプロジェクトに提携できる機会を得たときには、いろいろな問題はあるとは思うが、それでも積極的に参加すべきである。


2008年2月6日 (水曜日)

【27. University of Washington】

カテゴリー: - egami @ 16時01分12秒

 1月半ば、シアトルにあるUniversity of Washingtonを訪問してきました。

 

 1861年創立のUniversity of Washingtonは、学部生約3万人、院生約1万人、教員・研究者・スタッフ約25000人。海外からの留学生が全体の約1/4を占めているそうで、キャンパス内を歩いていると、たくさんの東アジア・東南アジア系の学生を見かけます。
 学内には計22の図書館があり、全体で図書500万冊、その他の資料を数百万点所蔵しています。
 メインライブラリーにあたるSuzzallo Libraryは、ワシントン州の保存図書館として子供用図書と行政資料を集中的に収集・保存しています。また、州立大学の図書館であるため、一般の人でも自由に入館利用が可能です。
 学部生用図書館であるOdegaard Libraryは、現在ラーニングコモンズとしての機能をメインに持たせており、学内IT部署による学生利用端末とそのサポート、Writing Center、グループ学習室、メディア編集室・撮影室などを提供しています。(ラーニングコモンズについては【20. 学習活動のすべてをまかなう – Learning Commons (UMass Amherst)】を参照。)また、情報リテラシー教育、利用講習会などのインストラクション活動が非常に盛んで、レファレンス・ライブラリアンが文献収集に関する講義を担当するのはもちろん、情報リテラシーに関するデジタルコンテンツの開発・作成などについては専門の部署が担当しています。

 University of Washington Libraries
 http://www.lib.​washington.edu/​
 UWill
 http://www.lib.​washington.edu/​uwill/
 Research 101
 http://www.lib.​washington.edu/​uwill/research1​01/

 East Asia LibraryのKeiko Yokota-Carterさんに、Suzzallo Library、Odegaard Library、East Asia Libraryを案内していただき、お話をうかがいました。今回は特に、DVDなどの視聴覚資料について、OPAC・目録データベースと、OCLC WorldCatのローカル利用について、ご報告します。

●視聴覚資料の提供と入手
・視聴覚資料の提供・サービスを主に行なっているのは学内のメディアセンター(学部生図書館内にあり)であるが、日本映画DVDの英語版はメディアセンター、日本語版はEast Asia Libraryといったように棲み分けができている。
・メディアセンターでは、所蔵していないDVDへのリクエストに対応するサービスとして、"NETFLIX"を利用している。"NETFLIX"は一般に人気のDVDレンタルサービスで、オンラインでオーダーして、郵送で受け取ることができる。"NETFLIX"との協議で、教員による講義教材用・研究用としてのみ、利用が可能となった。サービス・受付はメディアセンターが行ない、費用もメディアセンターが負担している。(注:通常のILL費用は利用者自身ではなく図書館が負担) 購入するよりも安く、かつ、ILLでは入手し難かったり対応してもらえなかったりというDVDが、都合よく入手できるので非常に便利である。
・East Asia Libraryにおける日本DVD入手については、これまで、著作権や海外販売不許可に関する問題、リージョンコードの問題、字幕・吹き替えに英語がないなどの理由で、なかなか購入できなかった。それでも、例えば語学クラスなどでの利用リクエストが多く、また既存のビデオテープ資料の内容が古くなっていく一方であることもあって、様々な方法で入手している。これまでにあった例としては、舞台演劇のDVDなど一般に流通していないものを購入しようとして、最初図書館相手に販売してもらえなかったものを、交渉の末、研究用資料としてのみの使用を条件に買うことができた。香港のDVD販売サイトで、香港正規版の日本映画DVDを購入。日本のマンガ・映画を英訳・出版・販売する米国内の会社から購入、など。

●East Asia LibraryにおけるOPAC・目録データベース
・目録データベースへの収録率は約80%。現在でもカード目録を現役で提供している。
・現在のOPACでCJK(Unicode)対応が実現したのは、4年ほど前。システムはINNOPACを使用。但し、INNOPACでは韓国語の検索・取り扱いには専用のソフトを用いる必要があったが、当初はそれが搭載されていなかったため、対応に時間がかかったり、その負担者について問題になったりした。
・「Pre-Cat」:OCLCに既存書誌がなかったり、あっても不正確・不備が多いなどの場合、OCLC書誌の登録・ダウンロードをいったん保留し、ローカルのデータベースのみに簡易書誌(書名・著者名・出版事項・形態事項と連番のみ、分類・件名なし、請求記号付与なし)を作る。フルレコードでカタロギングするまで時間がかかる場合でも、これによって利用者への新着図書の提供を可能にしている。
・最近の受入分については、書誌レコードに紀伊国屋書店Bookwebの書誌・内容紹介ページへのリンクを付与している。図書館の書誌レコード、特に「Pre-Cat」だけでは、例えばそれが同じ作品の小説版なのかコミックなのかDVDなのかが、利用者にはわかりにくいことがある。西海岸エリアの紀伊国屋書店Bookwebの注文可能なページにリンクすることで、紀伊国屋書店の理解を得た。
・所蔵・受入している日本語雑誌のうち、オンラインでアクセスできる紀要・CiNii収録雑誌・オープンアクセス誌について、OPACの書誌レコードからのリンクを付与している。所蔵・受入している全タイトルについて、学生バイトによる助けを得て、インターネット上の資源の有無を調査し、書誌レコードに手動で入力した。計400タイトル。全文ファイルがあることが理想だが、抄録・目次情報だけでもリンクを形成している。

●WorldCat Local
・WorldCat Local:OCLCのWorldCatをローカライズして、自館の蔵書検索システムとしての利用が可能になるというもの。現在は試行段階で、University of Washingtonが試行版第1号としての提供を開始している。(2007年4月から)
・ローカルのOPACシステムとして利用できる。検索結果の関連度順表示、利用頻度順表示、版違い資料の一括表示ができる。参加コンソーシアム蔵書やオープンアクセス資料、ERIC・MEDLINE・ArticleFastなどの論文データベースも検索対象にできる。e-resourceであれば全文へのリンクを提供。ファセットによる絞込み・ブラウジングができるなど、OCLC WorldCatが持つ機能をそのまま利用できる。
・現在は試行段階で、従来のOPACとWorldCat版OPACとをともに提供している。これを将来的にWorldCat版のみにしようという動きが学内にはある。が、ローカルデータベースの書誌レコード中に独自に入力しているデータ(自館で入力した件名・分類や、上記の日本語雑誌の全文へのURLなど)や、書誌レコード自体をローカルデータベースのみに作成しているもの(上記のPre-Catの例など)は利用できなくなってしまうため、導入には問題も多い。
 


2008年1月24日 (木曜日)

【26. East Asia Library – Yale University Libraryその2】

カテゴリー: - egami @ 11時32分39秒

 Yale UniversityのEast Asia Libraryには、日本分野専門のコレクション&レファレンス・ライブラリアンが1人、日本資料専門のカタロガーが1人いらっしゃいます。East Asia Library全体のトップであるキュレーターも、日本研究が専門の方です。

 コレクション&レファレンス・ライブラリアンの中村治子さん、カタロガーの鈴木啓子さん、キュレーター(東アジア図書館館長)のEllen Hammondさんにお話をうかがいました。

●データベース契約における障害・問題点
・Japan knowledge、聞蔵(朝日新聞)などを契約。
・学内の中央組織にデータベース契約専門の部署があり、日本の有料データベースを契約するときにもそこを通さなければならない。が、日本のデータベース業者側の提示している利用規約が、米国側の契約上の基準や利用実態に合致しないため、契約ができなくなってしまうことが多々ある。例えば、米国側では「大学内のメンバーであれば、学外のネットワークからでもアクセス可能であること」が必須の条件であることが多いが、日本側の利用規約にそれを認めない旨が記載されているために、契約が認められない、ということがある。また、日本側の利用規約に「データの転載を認めない」というような文言があることによって、論文の参考文献リストへの記載などが不可能になるおそれがある。日本ではそれほど問題視されずに契約が成立するような規約であっても、米国の契約関連の部署は規則の遵守について極めて厳密に考えるため、少しでも訴訟を受ける可能性のある契約や、規約にあいまいな表現の残る契約は避けようとする。(ハーバード・イェンチン図書館でも、「ユーザの不正利用の責任は図書館が負うこと」という条件のため、契約が許可されない例があったようです。)
・以上のような場合、日本側の業者・代理店と何度も交渉しなおしたり、直接日本に出向いてお互いに意思を確認しあうなど、たいへんな時間とエネルギーを費やすことが多い。それでも、お互いに継続してコミュニケーションを取り合うことが重要である。
・但し、このような交渉は、アメリカの東アジア分野図書館という、日本側から見れば小規模・少数のユーザからの要求・説得だけでは、限界があり非常に難しい。利用規約や契約条件の文言があいまいであったり、実際の利用に即していなかったりといったことは、日本の大学図書館・ユーザにとっても好ましい状態ではないはず。このような場合には、衝突を避けて契約に応じるのではなく、ぜひ日本の大学図書館側からも要求を出し、説得を試みることによって、事態を進行させてほしい。

●日本へのILL依頼
・ILL依頼は、どのような言語・国の資料であれ、すべて館内のILL専門部署が集中して担当する。日本の図書館に資料を依頼する利用者も、直接ILL部署に依頼を送り、依頼業務も館内のILLスタッフが執り行う。ILLスタッフは日本語がわかるわけでも日本の図書館事情に精通しているわけでもないので、ルーチンな処理ではないなどの場合には、日本分野専門ライブラリアンのところに相談が来ることがある。
・GIFは、日本側の参加館が多いのが助かっている。ただ、同じ大学内の資料であっても、別の図書館や部局にあるために使えない、という例が多い。そのためか謝絶されることが多く、結果的に利用しづらくなる。
・NDLのILLサービスは、ILLスタッフが日本語がわからず、NDLのサービスを使いこなせないため、利用されることが少ない。クレジットカード支払いができるのが利点ではある。
・CiNiiのペイパービューは、日本語がわからないILLスタッフでも比較的使いやすいシステムになっており、よく利用されているようである。ただ、CiNiiのライセンス契約条件・規約が、契約部署による基準に合致していないため、契約ができない。

●日本語資料の目録・書誌
・OPACでの日本語文字表示が実現したのは、2006年。但し、書誌自体は長い期間かけて様々な形で作られており、日本語データが入っていないものが多少あったり、分かち書きされているものとされていないものがあったりする。
・OCLCに参加。
・紀伊国屋書店に図書を発注した場合、OCLCに対応する北米基準の書誌がなければ、書誌レコードを作成・納品してくれる。昨年からは一部コピーカタログも依頼している。
・OCLCには早稲田大学からの書誌レコードが収録されており、それを北米の基準に即した形に編集して利用できるので、たいへん助かっている。ただ、昨年夏頃に旧RLIN内の日本語書誌のデータが収録され、結果的に件名・著者標目などの重複したデータ、北米の基準に合致しないデータなどが急増してしまった。書誌レコードやデータが増えること自体はよいのだが、このようにかえって手間が増える結果となってしまう例もある。
・現在の図書館OPAC(Yaleに限らず)は、書誌レコード内のデータをフルに活用しきっていない。もっと有効活用すれば使いやすく、いろいろなサービスを提供できるOPACになるはずである。そういった次世代型OPACへの移行を、Yaleでも準備中である。

●その他
・日本語の図書・論文などのフルテキストデータがオンラインで手に入らない件が、非常にフラストレーションを感じる。
・Yale Universityの図書館には、中国や韓国からはたくさんのvisiting librarianが来ているのに、日本からはまったく来てもらえていない。1日・2日の見学としての訪問だけではなく、長期間の交流・交換プログラムとしてもっと積極的に来てほしい。


【25. Yale University Library】

カテゴリー: - egami @ 11時32分27秒

 Yale University(イェール大学)は、1701年設立、全米で3番目に古い歴史を持つ大学です。ニューヨークから北東へ約100キロのニューヘイブンという街にあります。研究やスポーツなどにおいて、ハーバード大学とは何かとライバル関係に挙げられる存在のようです。学生数約13000人、研究者約3000人。図書館の蔵書数は約1250万冊に及びます。
 11月の終わり、Yale Universityの中央図書館であるSterling Memorial Library、およびその中にあるEast Asia Libraryを訪問してきました。

 Yale University Library
 http://www.libr​ary.yale.edu/

 Sterling Memorial Libraryは1930年の建物ですが、ゴシック様式の教会をモチーフとしてデザインされています。ステンドグラス、柱や壁の彫り物、メインカウンター付近に掲げられたフレスコ画など、ヨーロッパの美術館のようです。ただ古く美しいだけでなく、回廊型の建物の中庭に天井を設けてMusic Libraryとしたり、地下通路を設けて新設された学習用図書館へ直接行けるようにするなど、利用の便にあわせた改装も適宜行なわれているようです。
 このSterling Memorial Libraryは人文・社会系の総合図書館ですが、学内には他にも貴重書専門のBeinecke図書館など、計22の図書館があります。

 East Asia Libraryが管理を担当する東アジア言語資料は、全体で約70万冊。うち日本語資料が約25.6万冊で、年間約5000冊増加しています。リーディングルーム及びオフィスはSterling Memorial Libraryの2階に位置し、日中韓各言語による参考図書・雑誌、及び英語で東アジア分野の参考図書・雑誌が配架されています。それ以外の図書は、日本語・中国語・韓国語各資料とも、すべてSterling Memorial Library館内の一般書架に、英語等の西欧言語資料と同様に請求記号順に混配されています。この混配は1949年、日中韓各言語のコレクションがまだそれほど多くなかったと思われる頃に開始されたものです。その後、これらを別置する案もあがったようですが、コストの問題などから実現せず、現在に至っています。
 学内には、東アジア言語・文学の部局以外には、東アジア分野を専門とする独立した部局はありません。学生・研究者は歴史であれば歴史の、人類学であれば人類学の各分野の部局にわかれて所属するかたちになります。これら学内各所に散ったファカルティ・メンバーによってEast Asia Councilが組織されており、研究者のほか、美術館のキュレーター、ライブラリアン等が参加しています。
 Yaleにおける東アジアコレクションの歴史は、1870年代にAddison Van Nameがコレクションをスタートさせたことに端を発します。日本語のまとまった蔵書は1873年O.C.Marshによって寄贈されました。その後、歴史学者として有名な朝河貫一が初代東アジアコレクション部長を兼任し、LC(米国議会図書館)とYaleとの依頼を受けて、日本語資料の集中的な購入・収集を行ないました。これにより約22000冊の和書が収められ、その後のEast Asia Libraryにおける日本語資料コレクションの基礎となります。
 このときに収集された和書のうち、古典籍資料にあたるものはほとんどがBeinecke図書館(古典籍・写本専門の学内図書館)に収蔵されています。Japanese Manuscript Collection(朝河貫一による収集、中世史料700タイトル・1200冊)のほか、Yale Association of Japan Collection(1930年代の収集・寄贈、11世紀東大寺文書、太閤検地文書、経典、奈良絵本)など。また、Sterling Memorial Library館内には文書類を管理するManuscripts & Archives部署があり、朝河貫一の書簡・日記等が収められています。

 Yale University Libraryは現在、Microsoftの蔵書デジタル化プロジェクトに参加しています。著作権の切れた英語図書が対象で、作業を行なうのはKirtas(http://www.kirt​as-tech.com/)。スキャンされたデータはMicrosoft Live Searchで検索可能となり、大学側でもそのデータを保持することになります。対象図書は10万冊に及びますが、それでも「少ない」と言う人もいます。蔵書デジタル化事業についてはどの大学も積極的に取り組んでいるようです。日本語資料については、前述のYale Association of Japan Collectionが東京大学史料編纂所によってデジタル化され、現在はBeinecke図書館のデジタル画像データベースで公開される予定です。


2008年1月16日 (水曜日)

【24. Harvard Depositoryと自動書庫システム】

カテゴリー: - egami @ 19時42分58秒

 以前ハーバード大学の保存書庫・Harvard Depository(HD)についてご紹介しました(http://www.kuli​b.kyoto-u.ac.jp​/modules/wordpr​ess/index.php?p​=42)が、この記事をご覧になった方から、「ハーバードでは”自動書庫システム”は採用されないのか」というご質問をいただきました。

 Harvard Depository
 http://hul.harv​ard.edu/hd/
 自動書庫システムを採用している奈良県立図書情報館
 http://www.libr​ary.pref.nara.j​p/jido/index.ht​ml
 自動書庫ブックロボ(金剛株式会社)
 http://www.kong​o-corp.co.jp/se​ihin/index_jidou.html

 当日我々を案内してくださったHDのアシスタント・ディレクターの方に、お話をうかがってみました。

・自動書庫システムは、利用者用の公共スペースを充分に増やすのに、効果的であると思う。実際、自分が数年前に訪れたとある大学の図書館でも、自動書庫システムを採用していて、捻出できたスペースを学生の勉強場所として提供していた。
・ただし、その機械が蔵書に与えかねないダメージについては、慎重に考えざるをえない。実際にダメージを受けている本を複数の図書館の自動書庫システムで見てきた。ある図書は、出納システムに対応させるため、直接マーカーでナンバーが書き記されていた。長い道のりをかけて運搬される間の振動も非常に気掛かりで、本の製本状態を悪くし、寿命を短くしかねない。(もちろん、開架書架の本もまた、利用者の乱暴な取り扱いによって傷む可能性がある。)
・さらには、自動書庫システムであってもHD方式であっても、運搬し、ケースに納めるのは人間のスタッフである。彼らがいかに本を丁寧に取り扱うかが重要であり、そのためのトレーニングが充分になされなければならない。
・我々が採用している方法(HD方式)は、利用頻度が極めて低い資料に対して有効なものである。良く使われる資料については逆にコストがかかるばかりである。
・HDの次期増設の際には、自動書庫システムを導入するかどうかも検討に加えることになるだろう。

 前回ご紹介しましたように、HDは「資料を永年保存すること」という使命を果たすために造られた施設ですので、彼が資料へのダメージという短所を重く受け止めているのも当然のことだと思います。一方で、資料の永年保存よりも、効率的な出納や学習場所の確保を優先させる、という考えを持った大学や図書館であれば、自動書庫システムは有効な技術のひとつであると言えるでしょう。
 重要なのは、技術があるから、それが最新だから採用する、ということではなく、その図書館にとって最も優先して守るべきものがはっきりしているかどうか、そして、その使命を果たすのに最適な方法は何か、ということではないかと思います。


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