京都大学附属図書館は1899年12月11日開設せられ,一昨1959年を以て60年の歳月を閲することとなり,この歳12月11日の開館記念日を卜して60周年記念式典を挙げて自祝したのである。顧れば,京都大学図書館が1897年京都帝国大学の創立と同時にその設置が準備せられ間もなく開館せられるにいたった事実は,大学にとって図書館の重要性が開学の当初から認識せられていたことを示すものであって,注意を惹くに足る。爾来,本図書館は社会の推移にしたがい迂余曲折はあったとはいえ,全般的には順調な発展をとげて今日にいたったことはまことに幸いであった。その間,京都大学における研究と教育とに貢献したことけだし少なくないといえよう。

 われわれは,京都大学附属図書館が収蔵する資料にもとづいて,わが図書館の60年の歩みを館史にとどめることを,60周年記念式日において計画したのであって,その後1年有余にわたり,想を練り,稿を改めて,このたび京都大学附属図書館60年史を上梓する喜びに際会することができた。京都大学図書館史は,京都大学史の一部として,過去60年間における大学教育と大学における学問研究を図書館の窓を通じて知らしめることができよう。すでに海外にあっては著名図書館の館史で公刊せられた良著が少なくないにかかわらず,わが国にあっては図書館史と銘うったものはこれまで絶無の状態であったから,われわれがいま京都大学図書館史の一本を公けにすることは,単にわが図書館の成長を記念するだけではなく,およそ図書館運営の一事例を赤裸々に提供して江湖から何らかの批判を仰ぎ,以てまたわが附属図書館の運営を改善し,将来に向っての一歩前進を期したい所以に出ずるものである。ともすれば過去において一般に大学図書館は大学の装飾にすぎずアクセサリー的存在とすら見られるきらいがないではなかったが,いまや図書館あっての大学ということがようやく認識せられんとしつつある。大学図書館の使命はまことに重かつ大である。この時にあたり本書を世におくることも意味なしとせぬであろう。

 京都大学附属図書館60年史を編纂するについては,館内に編纂委員会を設けて事に当ったのであるが,とくに附属図書館事務長岩猿敏生君が企画,編集を担当し,館員諸君がこれに協力して各部門につき執筆したものであって,文字通り全館員の共同労作といい得べきものである。

  1961年3月

     京都大学附属図書館長 田中周友