第2章 図書の整理

 明治41年の「京都帝国大学附属図書館案内」によれば

 京都帝国大学附属図書館ハ明治三十二年十二月十一日ヲ以テ閲覧ヲ開始セリ仍テ此ヲ創立ノ日ト定ム之ニ先ツ二年大学創設事務ノ開始セラルルヤ理工科大学教室ノ一隅ニ仮図書室ヲ設ケ早ク購入図書ノ整理ニ着手シ又本学創立記念ノ為各所ヨリ寄贈セル図書ヲ受納シタリキ明治三十二年七月ニハ前年ノ十月ヲ以テ本学西部ニ起工セル図書室書庫等落成シ諸般ノ設備整フヲ待チ三十二年七月ヲ以テ新築舎ニ移転シ三日内ニ之ヲ結了シ又夏季休業中ヲ利用シ各部ニ於テ購入セル図書ヲ収納シ新ニ原簿登録ノ番号ヲ附シ九月二日ヲ以テ完了シ悉皆之ヲ各教室ニ貸付シタリキ。(中略)
 明治三十五年十一月法科大学内ニ分館ヲ設置シ法科図書ヲ別チテ之ヲ監督ス………三十六年夏期休業中ハ新書庫ノ完成ト共ニ和漢書目録ノ照合ニ従事シ精密ナル分類法ニヨリ分類箋ヲ図書ニ貼附シ又分類目録ノ草稿ヲ完了セリ……三十七年夏期休業中ニ於テハ増加セル和漢書目録ヲ調製シ又洋書ノ分類ヲ改正シテ特ニ簡約ヲ主トセリ……

とある。
 すなわち創設当初は理工科大学教室の一室に仮寓し,整理指導員として帝国図書館より笹岡民次郎を迎えた。この草創期にも年間2万冊を整理しているから相当繁忙を極めたものと想像される。当時のカードは帝国図書館にならって,小型カード(47mm×122mm)を使用した。これが現在にまで続いて,事務用カードとして,今もなおその型式を踏襲している。60年前に書かれたカードを見ることができるのは懐しい。

明治時代のタイプライター
 明治33年からタイプライターを使用しているが,この初期のタイプライターはわが国では極めて珍稀なものであって,今なお管保されている。法科大学講師狩野直喜(明治33.11.27−34.8.7)同湯浅吉郎(明治34.5.15−35.8.18)が,短年月ではあるが,図書事務を嘱託されたのはこの時期である。
 カード記入形式は和漢書は書名主記入の三段式であることは現在と同様である。いずれの目録規則に準拠したかは明示せられていないが,当時までに一般に発表されている目録規則には次のものがあった。
日本文庫協会編: 和漢書目録編纂規則(明治26年,1893)
Cutter, Ch. A.: Rules for a Dictionary Catalog.1876(明治9年)
Dewey, M.: Library School Rules.1898,(明治31年)
以上によって大体が推測できる。
 明治34年1月25日付の大阪高等工業学校への回答は当時の本館の図書整理事務について次の如く述べている。

 本月23日付大高423号ヲ以テ御問合ノ件要ヲ摘ミ大略左ニ記載致候尤モ洋書「カード」目録記入法ハ一定ノ法則有之頗ル複雑ナルモノニ付概略ヲ挙ケ候其他詳細ノ儀ニ渉リテハ御掛員御来館被成候ハハ乞度充分愚見可申述候此段及御回答候也……
雑誌及新聞取扱及保存
 雑誌新聞其他逐次刊行物ハ毎号若クハ毎月到着ノ都度先ツ仮原簿ニ其発行年月日,号数,冊数其他摘要ヲ附記シテ仮受入ヲナシ雑誌ハ其完結ヲ告ルマテ別ニ雑誌函ニ入レ置キ完結セハ直ニ製本シテ本受入ノ手続ヲナシ現品ハ普通図書ノ取扱ト同シク庫内ノ相当函ニ整頓シテ永久保存スルナリ新聞紙ハ大略一ケ年分ヲ四冊若クハ三冊ニ製本シテ本受入ノ手続ヲナシ保存方ハ普通図書ト別ニ大本ヲ容ルヘキ適当ノ書函ヲ造リ永久保存スル〔東壁第二号大本ヲ容ルヘキ書棚参照〕
元簿記入雛形 本館ニテ使用ノモノ一枚ヲ添付ス
洋書分類目録或ハ分類法
 本館ニテハ目下分類法取調中ニ付追テ印行ノ上御送付可致候本分類法ニ関シテハ御参考トナルベキモノ二三種本館ニ備付有之候ニ付御来館被成候ハハ貴覧ニ可供候洋書「カード」目録記入法 之ハ別紙ニ五六ノ実例ヲ挙グ
函架箋及分類箋
 函架箋七種ヲ添付ス色別ハ大類ヲ分ツ便ニ供スル見込ナリ分類箋ハ未ダ制定セズ

つぎに大正3年の学友会誌第10号によれば

 図書整理事務につき一言せんに,先ず書物が或る教室より送付さるるときは (1)受付掛が其教室より送付の伝票に依りて現品を点検し,点検終れば伝票に受入番号を記入し番号順に図書を凾架に排列す。夫れより (2)丁数検査掛は一冊毎に頁数をコレートし,挿図,表等のある場合は其枚数を該図書に記入し,調査終れば図書を元位置に復し,次に (3)目録掛は伝票に記入の受入番号順に図書を函架より取出し,伝票と対照して目録を調整す。目録調整終れば(4)捺印掛はこれ等の図書に受入番号,購入年月日,蔵書印,エムボシングスタンプ等を捺す。捺印掛の手を経たる後図書は (5)分類掛及函架掛の許に送らる。分類掛は書物とカードとを対照してカードに分類を施し,更に凾架目録に記入したる上,図書は (6)分類凾架箋貼付掛へ送らる。当該掛にて一定の手続を経たる上は,最後に (7)貸付掛原簿掛の手によりて整理せられたる後,図書はここに始めて本学蔵書たる資格を有するに至るものにして,其間少くとも七掛員の手を経ざるべからず。尚他に局外者の到底予想し能はざる複雑困難なる事務少からずと雖も,之を詳述せず。ここに偶々本館近況を報ずるに方り,この機会を利用して聊か図書整理事務の一端を挙げたるのみ。読者の参考に資するを得ば幸なり。

 以上の記事は大正3年頃の図書整理の順序を極めて詳細にのべてあるが,現在もこれと少しも異らず,掛員の配置上,目録掛が(2)(3)(5)を行い,受入掛が(1)(4)(6)(7)を行っているから,図書の移動は受入掛→目録掛→受入掛の順をへて供用官に供用されるのである。

整理部 前方より受入掛,和漢書,目録掛,洋書目録掛

 現在は図書はまず供用命令書とともに本館に持ちこまれると,受入掛が検収して受入書架に部局別に排列する。次に供用命令書に基いて管理簿に登記し,さらにこの命令書によって受入掛は部局別・和洋別・種別受入簿に記入して統計の資料とする。さらにこの命令書によって番号簿に部局名を記入して,登録番号の正確を期している。これで受入手続は終り,供用命令書は目録掛の手に移る。目録掛は和洋別にそれぞれ供用命令書受付簿に受入年月日,番号,部局名,部冊数等を記入して,命令書の受渡を明確にしている。ただし,法経文の三学部は図書を持ちこまずに,単に供用命令書によって受入登録事務を行い,登録番号,年月日記入済の命令書によって,それ以後の整理事務を学部図書室で行うている。
 目録掛は供用命令書によって受入書架より図書を取り出し,和洋別に原稿カード(小形)を作成する。この小形カードは後に事務用カードとして排列されるが,それまでに謄写掛によって原稿カードから閲覧カード(大形)を作る。この際,和漢書はすべて印刷原紙に邦文タイプで打字する。閲覧カードは最少限度著者名,書名の2枚を必要とし,その他分類用,分出,副出のカードを必要とするものは,所要の枚数を印刷する。また部局により中央図書室のある所では,そちらへ印刷原紙を渡し部局の必要枚数を印刷して本館へ渡すのである。この印刷原紙はユニツト制であるから和漢書においてはすべて書名主記入の形を取り,著者名はローマ字で標記する。またこの原稿カードが書名主記入であることは,創立以来の事務用カードの記入形式にも一致して,本学総合目録の実をあげている。

和漢書目録用カードの謄写印刷 原紙タイプ作業

 洋書においてはALAの目録規則により,著者主記入で原稿カードを作り,さらに閲覧カードをタイプで打字するが,部局によりカードの配給を希望する向に対しては,印刷原紙に打字して謄写掛が印刷するか,または本館より渡された印刷原紙により部局図書室で印刷して本館用閲覧カードを作っている。
 謄写を終った原稿カードは原簿係で集められ,登録番号順に排列して,カードの誤脱を点検しながら,原簿記入を行う。これを終った原稿カードは和洋別にして目録掛に渡り,目録掛はこれを事務用カード箱に排列する。
 目録作成を終った図書は,供用命令書とともに捺印係に渡り,捺印係は蔵書印,番号印,日付印,秘密印を押して後,部局供用官に供用するが,供用命令書の欄外に部局図書係の受領印を求めて図書の受け渡しを明確にする。受け渡しの図書の多数ある部局に対しては,週1回トラツクによって集配を行うが,これは受入掛の任務となっている。