第3章 図書の運用


第2節 参考事務と文献複写業務


1 参考事務

 図書館奉仕において参考事務の重要であることは,いまさら言うまでもない。本館においても,すでに昭和19年(1944)5月,参考事務のために文献調査掛をおき,大学における研究・教育部面と図書館との緊密なる連繋を目的とし,本学所蔵文献の件名目録雑誌の論文目録禁止本目録良書目録秘扱図書目録, 京都帝国大学刊行図書目録等の作成を目標として掲げ, その他文献調査に関する資料の収集,整理等の事業を企図したのであったが,時あたかも戦争苛烈を極め,物資・人員ともに極端に不足の時期に際会したため,本格的活動に入ることができないままに終戦を迎え,ついに立ち消えの運命を見た。これが参考掛の前身と見られるものである。
 あらためて昭和28年(1953)11月16日国立大学としては東京大学に次いで正式に設置の決定を見たのが現在の本館参考掛であって,「図書と研究者や学生とを一層緊密に結びつけ,図書の利用を更に高度にする」という目的を持っていた。しかるにその後間もなく始められた複写設備の整備,ならびにその運営のために,参考掛はその方に主力を傾倒する必要に迫られ,本来の使命は二次的な活動に止まっている。

館内における参考事務
 大学図書館は公共図書館とは異なり,利用者の大部分は学生であり,研究に関してはそれぞれ明確な課題を持っていると同時に,教官の指導を得る便宜を有しているので,図書館の参考掛員が直接それらの研究に助力する機会は割合に少ない。ある種の主題に関する図書の検索方法の案内,学内部局図書室への連絡・紹介,他大学図書館や公共図書館への連絡,特定な図書の検索等についての協力等,いわゆるインフォーメーション・サービスが大部分を占める。そのほか趣味的な問題,教養的図書の選択等に際して質問をうけることが多く,学生の相談対手となって資料の探索・利用に協力を望まれることが往々ある。
 辞典の類はスペースの許す限り多数に展列し, 自由接架式によって自由に閲覧し得るようにし,百科事典を初め辞書,事典,書誌類733冊,洋辞書類708冊,年鑑類282冊,地図類23冊,法規類95冊,計1,841冊を開架に備えている。

館外に対する参考事務
 館外からの要求に対する参考事務には,要求者が本学図書館の組織・内容について不案内であるだけに,質問の焦点が広くなりがちであり,特に海外からの要求にはこの傾向が強い。
 たとえば「日本のパゴダ(塔)について(昭和26年4月米国より)」「日本におけるコークス炉に関する論文の調査(27年9月オーストラリアより)」「ラマ教に関する文献の調査(31年11月カリフォルニア大学より)」「日本で出版されているポーラログラフィーの関係文献(31年12月米固より)」「アグリコラの文献(33年5月独逸ワイマル古典ドイツ文学会より)」「国際オリンピック関係文献(33年8月ハンガリー体育科学会議より)」といったような問合せがある。そのような場合現在本館に備えられている程度の索引や学内蔵書の総合目録をもってしては満足な回答が得られないので,それぞれの専門部局に相談したり,教官に相談しなければならぬ場合も往々生じてくる。
 国内よりの問合せにおいても同様の悩みを味うことが相当あるが,この方はそれよりも本学に所蔵する特殊文庫ないしは貴重書に関して,流布本との異同とか,書目・参考文献等についての照会が多く,富士川文庫清家文庫谷村文庫近衛文庫等がその対象となることが多い。


2 文献複写業務

 写真による文献複写技術は第2次大戦中に著しい発達をとげたが,戦後わが国においても,文部省の科学教育局が中心となり,昭和21年7月学術会議内に文献調査研究特別委員会を設置し,同委員会内にさらにマイクロ・ドキュメント研究科会を設け,35ミリのフィルムをもって,図書・雑誌を撮影し,読書器を用いて映写し,研究者の利用に供しようという研究が進められた。
 その後マイクロ・フイルムによる研究資料の国際的・国内的な交換は次第に活発となり,昭和30年度に本館は特別の予算を得て,アメリカ,イーストマン・コダック会社製のマイクロ・ファイル・マシンDII型を購入するに至った。同機は自動焦点式で撮影マスクが自由に調節できるため,1コマの大きさを変化させ得る。また自動コマ送り式で,連続撮影の場合には1分間に約30コマを撮影し得る性能を有している。これに附随して自働電圧調整器も購入した。
 撮影機の入手に引続いて複写室の新営が行われ,近畿地区マイクロフィルム・センター館として発足するにあたって,31年5月26日,東京大学図書館において各地区センター館の打合せ会が行われ,その協定に基いて複写内規が決定され,同年7月より本館の文献複写業務は発足したのである。

マイクロ・ファイル・マシン DII型
 ちなみにマイクロフィルム・センター館として活動を開始した国立大学の図書館は次の通りである。
 北海道大学・東北大学・東京大学・東京工業大学・金沢大学・名古屋大学・京都大学・広島大学・九州大学。
 しかし,複写業務に対する国からの予算的措置はなんらとられていなかった。それで依頼者が学内関係者であって,研究のため公費によって複写費用を支弁する場合は,経費移算によって本館に所要経費が移されるので問題はないが,私費あるいは学外よりの依頼によるものは,その料金は国庫に収納され,本館にはもどってこない。そのため業務が発展し,受注が増えれば増えるほど,本館の予算が喰われていくことになり,ここに複写業務は大きな障害につき当らざるを得なくなった。
 そこで料金を公正に収納しうるとともに,必要資材の購入も不便なく,円滑なる運営を可能ならしめ,学術文献の相互利用をさらに活発にする目的をもって,昭和33年1月新たに「文献複写会」が結成され,会長は本館事務長とし,委員・監事もそれぞれ委嘱された。文献複写会の発足により,これまでのように,仕事をすればするほど本館の予算が喰われるという経理上の隘路が打開されたため業務は飛躍的に発展し,33年度は前年度にくらべ,一挙に10倍近い業務成績を挙げることができた。
 同年12月には複写室の拡張工事も完成したので,従来行なってきた閲覧事務室での申込受付,引渡事務を,複写室に移してここで取扱うことになった。ところが文献複写会の制度による業務の遂行にも,疑義を生じるに至ったので,約1年を経た34年3月より,ふたたび料金を国庫に収納することとなった。しかし最初の時の国庫収納制とは異り,今度は納入した金額に比例して予算の配当を受けることができるようになったため,複写業務に関する経理上の問題点は全くのぞかれることになった。

文献複写室における受付事務
 しかしながら,この業務のための定員は今日に至るまで,まだ全く配当されていない。したがって本館では,従来の本館定員の中から事務官2名,常勤労務者1名を現在割いて,この業務に当らせているが,増大する作業量に対しては,とうていこれだけの人員では処理し得ない。それで賃金支弁により,現在8名をさらに雇用しているが,定員でないため,従事者に対し将来の保証も与えられず,従って特殊な技術を必要とするにもかかわらず,十分な訓練も与えることができない。学術文献の交流のますます盛んになる今日,複写業務に対する定員の問題は,解決をせまられている緊急な問題の一つであると言えよう。

引伸業務
 なお文献複写業務開始以来,各年度別の複写件数,ならびに金額はつぎの通りである。
昭和31年度 (1956.8−1957.3)   375件   184,175円
   32 〃 (1957.4−1958.3) 1,143   389,958
   33 〃 (1958.4−1959.3) 2,793 3,353,121
   34 〃 (1959.4−1960.3) 3,078 3,862,952
 件数の増加よりも金額の増加の方が高率であることは,この間数回の料金改訂が行われたことに起因する。