あとがき

 昭和34年12月11日の本館創立60周年記念事業のひとつとして,本館史の編さんが計画されていたが,いろいろな都合で,記念式典までに館史を刊行することができなかった。それで式典後ただちに館史編さん委員会を設け,35年度中に刊行できるように体制を整え,数百冊にのぼる館のいろいろな記録類を漁って,必要な資料を引き出すという作業にとりかかった。
 しかし繁忙な館務のかたわらでの作業であるため,資料の調査という第一段階の作業は遅々として進行しなかったが,集められた資料を委員で回読するため,すべてを写真に撮り,8月中には約3,148枚の資料の写真ができ上った。9月からこれらの資料をそれぞれ執筆分担者に分けて執筆にとりかかり,35年12月中にほぼ原稿の完成をみた。正式に委員会を設けてから原稿完成までに,ちようど1年間かかったわけである。しかしでき上った原稿は,各自めいめいに執筆して貰ったため,相互に重復もあり,また欠けたところもあるので,36年1月から,全体的なまとめにかかり,2月下旬やっと印刷所に原稿を渡すことができた。
 本館史の編さんをわたしたちが計画したのは,それによって過去60年間の本館の歴史をふりかえり,この図書館に働くわたしたちの新たな出発点をしるしづけたいということがまずその一つである。60年の歳月はいたずらに流れたのではなかった。そして現在は過去の集約である。本館史の上で,いまのわたしたちの置かれている歴史的時点を正しくつかむことによって,今後の進路の展望も得ることができるであろう。その意味で本館史はまず,わたしたち自身の反省のため編まれたのである。
 しかし本館史を広く公表するのは,本書はただにわたしたちのためだけではなく,図書館関係者,とくに大学図書館関係者にとって,なんらかのお役に立ちうるものがあるかも知れないと思うからである。本館は現在の国立大学附属図書館としては,東京大学とともに,官制上はじめての附属図書館である。その意味で,善かれ悪しかれ,本館史は国立大学附属図書館の歩いた歴史の,ひとつの典型を示すであろう。
 アメリカではすでにいくつかの大学図書館のすぐれた歴史が公刊されている。しかし日本ではひとつの大学図書館の歴史が,それ自体として刊行された例をわたしたちは知らない。すでに60年を迎えたわたしたちの図書館が,まずその歴史を公表することは,これから50年・60年の歴史を迎えようとする他の大学図書館にとって,なんらかの参考にもなりうるかも知れない。とくに今後日本の大学教育・大学図書館を考えようとする者にとって,本館史のようなものは,ひとつの資料的意味を持ちうるであろう。今後いくつかのこの種の大学図書館史が,国公私立の大学図書館によって書かれていくことによって,日本の大学図書館の研究も大きく進展しうるであろう。本書がその誘い水ともなりうれば,それは望外の喜びである。
 しかし本館史は,専門の歴史家の手になるものではなく,こういうことには全くの素人の編んだものである。それでできるかぎり,なまの資料をそのまま投げ出すことにつとめた。しかし従来の本館の諸記録には,こういう歴史の編さんにすぐに役立ちうるような記録が非常に少なかった。その点で資料の調査には非常に骨を折り,鈴鹿,古原,広庭君らの努力なしには,資料調査という第一歩でまず行きづまっていたことであろう。とくに古原君は詳細な年表を作成し,本館史の内容構成を立案するなど,本館史編さんの筋道をまず開拓してくれた。こうした委員たちの努力にもかかわらず,本館史は刊行費予算の執行上,刊行時期が厳守されなければならなかったため,十分な吟味を加える余裕のなかったのは残念である。そのため,あるいは資料の調査が行きとどかず,思わぬ遺漏や解釈の間違いもあるかも知れない。わたしたちの先輩の苦斗は輝しかった。しかしそれを記録に留めるわたしたちの才拙きを嘆かざるをえない。しかし今はすべてを将来の100年史,あるいは200年史を編む後輩にまつのみである。
 背の題字は田中館長の筆であり,挿入写真の大半は広庭君が撮った。また谷口寛一郎,田中敬雄の両君は貴重な古い写真を提供し,その他直接執筆に当らなかった館員たちも,資料の調査を援助するなど,とにかく本館史は拙いながらも,こうした館員全員の一致協力によって成ったものである。
 終りに執筆者氏名とその執筆分担章節を挙げておく。
(事務長 岩猿敏生)

第1章 沿革 岩猿敏生 神田富夫 広庭基介
第2章 図書の整理 佐々木乾三
第1節 図書の受入(1−2) 竹内愛次郎
     図書の国際交換 西谷誠次郎 尾崎富美枝
第2節 目録 佐々木乾三
第3節 分類 佐々木乾三
第3章 図書の運用
第1節 閲覧貸出 内藤 昭子
第2節 参考事務 西谷誠次郎
第3節 蔵書 鈴鹿 蔵
第4章 事業
第1節 刊行物 鈴鹿  蔵
第2節 展覧会および講演会 田中 敬雄
第3節 図書館講習会および京都図書館学校 田中 敬雄
第5章 尊攘堂 田中 敬雄
第6章 研究団体および協議会 古原 雅夫
附録 神田 富夫