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約100万冊の資料を所蔵する附属図書館でも、“読めばご利益がある”資料は貴重です。庶民の男が、職を失うも塩焼き (製塩)で財を成し、その後も幸運に恵まれるという、現代にも通じる成功物語。室町時代に成立し、江戸時代にかけて 「読めば幸運が」と広く親しまれました。身一つで成功したい人はぜひ一読を。鮮やかに彩られ、金銀も使われた豪華な奈良絵本で、 衣装の模様、植物の葉の付き方など挿絵の繊細なタッチにも注目です。
「文正の塩は体に良い」と人気になり巨万の富を築きます
主要人物は衣の色が一貫しているので見分けやすい
金の雲は盛上彩色、銀の雲には銀切箔が使われています
京都大学附属図書館蔵 請求記号 4-40/シ/2貴別 「しほやきぶんしょう」
作られて100年経った道具には魂が宿り、人の心を惑わすといわれます。これが付喪神(つくもがみ)です。 年末の煤払い(大掃除)で捨てられた古道具たちが集まって「捨てた人間どもに仕返しするぞ」と一致団結します。 古道具たちは、さまざまな妖怪に姿を変えて悪事をはたらくものの、最後には信心が芽生え……。描かれている妖怪たちの かわいらしいことといったら!現代でもマスコットキャラクターとして人気を博すのではないかと思われます。
妖怪たちは飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ
お祭り行列を組んで一条通を進みます
妖怪が悪事を後悔。仏門に入り修行し、成仏を果たします
京都大学附属図書館蔵 請求記号 8-44/ツ/2貴別 「付喪神絵巻」
「國女歌舞妓繪詞」は歌舞伎のはじまりの資料として歴史の教科書に紹介され、 附属図書館所蔵の奈良絵本の中でも教科書掲載第1位です。この絵を一度は目にしたという方も多いことでしょう。 出雲から京の都へ来たお国は念仏踊りを舞い、それに誘われ現れた旧知の友の霊と歌を交わし、歌舞伎踊りをします。 その後、霊は名残を惜しみつつ戻ってゆきます。彩り豊かな挿絵からは、お花見や歌舞伎踊りを楽しむ人々の情景をも うかがい知ることができます。
出雲から京の都へ向かう一行
お国の念仏踊りに誘われて友の霊が現れます
男装したお国が、霊とともに歌舞伎踊りをします
京都大学附属図書館蔵 請求記号 4-40/ク/1貴別 「國女歌舞妓繪詞」
主人公は、かの有名な源義経(幼名・牛若丸)。民衆人気の高い不遇の若武者・義経の逸話は、 『義経記』 『平家物語』 『吾妻鏡』 などの他に、舞曲や物語の形式でも数多く伝えられています。この資料は、 中世の舞曲を読み物にしたもので、義経は周囲の男性たちと比べて色白で幼く、それでいて勇ましく描かれます。 タイトルの「烏帽子(えぼし)」とは、男性が和装で被る黒い帽子。その先が左右どちらに折れているかで「源氏」と 「平氏」の区別がつくのをご存じですか?
「烏帽子(えぼし)」をかぶり、たった一人で元服の儀式を
亡き父・源義朝や兄たちの霊が夢枕に立つ迫力の場面
83人の盗賊を倒す場面でも、色白に美しく描かれます
京都大学附属図書館蔵 請求記号 4-40/エ/1貴 「ゑほしおりさうし」
平安時代末期の京都。宮中で仕える女官「たま藻のまへ(玉藻の前)」は、 その美しさと博識で鳥羽上皇をも虜にします。ところが上皇は夢中になればなるほど原因不明の病に蝕まれていきます。 宮廷に呼ばれた陰陽師によって、病の原因と玉藻の前の素性が明らかになります。その後の玉藻の前の運命はいかに? 絢爛豪華な宮廷の様子が描かれており、玉が輝くように光を放つシーンは、「玉藻の前」という呼称のいわれとなるほどに神々しいです。
美しく聡明な玉藻の前にみんな夢中・上皇もぞっこん
玉藻の前は光を放ち、闇夜のはずが真昼の明るさに
あの美しい玉藻の前の正体は?
京都大学附属図書館蔵 請求記号 4-40/タ/1貴別 「たま藻のまへ」
アマビエは疫病退散のお守りとして、またたく間に日本中に広まり有名になりました。 附属図書館所蔵の瓦版に描かれているアマビエは、夜になると海中から光とともに現れて「私はアマビエと申す者である」と名乗り、 6 年間の豊作と病の流行を予言して、自分の絵を写して人々に見せるよう言い伝えたと記録されています。 書き写してお守りとして、当時の人々も私たちと同じように病に立ち向かっていたのかもしれません。
魚? 鳥? 人魚?不思議な姿のアマビエ
弘化3年は1846年175年以上も昔のこと
肥後国は、現在の熊本県
京都大学附属図書館蔵 請求記号 新聞文庫 絵/ヒ/1 「新聞文庫・絵」
参考文献
『京都大学蔵むろまちものがたり2 ゑぼしおりさうし ; 雨やどり ; 仏鬼軍』京都大学文学部国語学国文学研究室編,臨川書店,2001.
『京都大学蔵むろまちものがたり3 しほやきぶんしやう ; 天竺物語 ; ほうざうびくのさうし』京都大学文学部国語学国文学研究室編,臨川書店,2002.
『京都大学蔵むろまちものがたり10 たま藻のまへ;たまも ; はちかづき ; 七くさ ; 付喪神』京都大学文学部国語学国文学研究室編,臨川書店,2002.
『京都大学附属図書館創立百周年記念公開展示会図録』