目次
判例とは
広義には、裁判において裁判所が示した法的判断のことを指します。厳密には、後の裁判において先例として参照されうる裁判所の判断を「判例」と呼びます。判例集や判例データベースに掲載されるものは、法解釈が先例となりうる重要なものを厳選したものに限られるため、全体の裁判数からするとごく僅かです。
判例は何に掲載されるか
判例は裁判所が発行する公式判例集・裁判集の他に、民間出版社が発行する判例雑誌に掲載されます。専門性の強い判例は、分野ごとの主題別判例雑誌に掲載されます。ただしこれらは紙媒体のため、判決が出てから収録されるまでの間にタイムラグが発生します。その点、後述する裁判所HPの裁判例情報は、判決言い渡し日の翌日に判例が掲載されますので速報性に優れています。また、判例データベースでは判例だけでなく関連文献等を含めた網羅的な検索が可能です。
しかしいずれの媒体も、すべての判例が収録されている訳ではありません。収録範囲に応じて、適宜使い分けることが必要になります。
判例をさがす際のポイント
コンメンタール(逐条解説書)や論文等に引用されている判例の出典にあたりたい場合の他に、特定の法令の条文に関連する判例を知りたい場合や、テーマ・内容から判例をさがしたい場合もあります。どのような条件の判例をさがしたいのかによって調査方法を工夫する必要があります。
また、引用からさがす場合、多くは略号表記されています。判例の全部や解説を見るためには、略記を読み下し、適切な資料にあたる必要があります。
さがし方の一例
- 特定の判例をさがす
- 判例掲載資料が引用で明記されている場合は、出典をあたる。略記の読み下し方は後述。
- 掲載資料名・巻号が不明の場合は、
- 裁判年月日・裁判所名等の条件を指定し、裁判所HP「裁判例検索」で検索する。
- D1-Law.com、Westlaw Japan「判例」で検索する。【学内限定】
- データベースでも見つけられない場合は、新聞・雑誌記事、その裁判を素材に書かれた図書をさがす。
- 特定の法令に関連する判例をさがす
- 法令は日々変更されるため、判例を調べる際にもその内容が「いつ時点」の情報なのかを意識すること。
- D1-Law.comで参照法令を条件指定して検索するか、体系目次検索をする。【学内限定】
- Westlaw Japan「判例」で参照条文を指定して検索するか、「新判例体系」から検索する。【学内限定】
- 当室所蔵の主要法律雑誌DVDを用いて、条文ごとに掲載判例を検索する。図書室内端末から利用可能。【学内限定】
- コンメンタール・判例六法等の逐条解説書で、関連判例として引用されている判例をさがす。
- 法令は日々変更されるため、判例を調べる際にもその内容が「いつ時点」の情報なのかを意識すること。
- 内容から判例をさがす
- 検索する前にそれがどの法令の、どの条文の問題なのかを特定する。
- 研究書・体系書・コンメンタール等の索引から関連する用語をさがし、本文で引用されている文献や関連判例をあたる。
- 判例データベースでフリーワード検索をする。検索語によっては検索結果が多く見つけられない場合があるため、関連する別の検索語も加えて絞る、より具体的な用語で検索する等の工夫をする。
- ある程度特定できれば、「特定の法令に関する判例をさがす場合」の手順と同様。
- 検索する前にそれがどの法令の、どの条文の問題なのかを特定する。
- 重要な判例をさがす
- 初学者の場合はそれが重要な判例かを自分で選別することは難しいため、重要判例を厳選して掲載している判例解説・判例評釈を参照するのがよい。
- 代表的な資料については後述。
- D-1Law.comで、解説が書かれている判例をさがす。【学内限定】
- 重要な判例については解説が書かれていることが多い。
- 初学者の場合はそれが重要な判例かを自分で選別することは難しいため、重要判例を厳選して掲載している判例解説・判例評釈を参照するのがよい。
- 最新の判例をさがす
- 判例が判例集・判例雑誌に掲載されるまでの間にはタイムラグがあるため、遅れを補う手段が必要。
- 裁判所HP「裁判例検索」を検索する。あらゆる手段の中で、最も速報性がある。
- 新聞記事・ニュース速報等で判例の概要や判決要旨をさがす。
- 判例が判例集・判例雑誌に掲載されるまでの間にはタイムラグがあるため、遅れを補う手段が必要。
略記の読み下し方
判例が引用される際には、下記の要素が略語で記されます。
- 裁判所名
裁判が行われた裁判所名の略記。最高裁・大審院以外は所在地と審級で表示されます。
例)最大→最高裁判所大法廷、最三小→最高裁判所第三小法廷、大阪高裁→大阪高等裁判所 - 判決・決定・命令
裁判は判決・決定・命令の三種類に分けられ、裁判所名の後に続いて判・決・命と略記されます。
例)東京地決→東京地方裁判所決定、大判→大審院判決 - 裁判年月日
判決・決定・命令が言い渡された年月日。「・」で年月日を区切って表記されることもあります。 - 事件番号(省略されることも多い)
事件番号は裁判所に訴えが提起された年、事件の種類の符号、番号が組み合わさったもので裁判所ごとに事件固有の番号が付されています。符号の一覧は、裁判所HP「各判例について」で参照できます。
例)平成26年(オ)第1023号→平成26年に最高裁に申立てされた1023番目の民事上告事件
25(ネ)3821→平成25年に高等裁判所に申立てされた3821番目の民事控訴事件 - 出典
判例が掲載された判例集や雑誌の名称と巻号。名称は略称で記載されます。略称の一覧は、「法律文献等の出典の表示方法」[法律編集者懇話会]に掲載されています。
以上を踏まえると、下記のように略記を読み下すことができます。
- 最大判平成27・12・16民集69・8・2427
→最高裁判所大法廷判決 平成27年12月16日 最高裁判所民事判例集69巻8号2427頁に掲載
- 大阪高判平成27年11月27日 平26年(行コ)第106号 判時2298号17頁
→大阪高等裁判所判決 平成27年11月27日 平成26年に大阪高裁に申立された106番目の行政控訴事件 判例時報2298号17頁に掲載
主な検索ツールの紹介
丸括弧内で資料名の略記を示しています。
公式判例集
- 『最高裁判所民事判例集』(民集)・『最高裁判所刑事判例集』(刑集)
最高裁判所判例委員会が選定した重要判例が掲載されます。判例集に掲載されなかったいくつかについては『最高裁判所裁判集民事』(集民)、『最高裁判所裁判集刑事』(集刑)に収録されます。
- 『高等裁判所民事判例集』(高民集)・『高等裁判所刑事判例集』(高刑集)
各高等裁判所の判例委員会が選定した重要判例が掲載されます。
裁判所HP「裁判例検索」では、上記の他の公式判例集も含めた検索と閲覧ができます。
民間判例集・判例雑誌
- 法学全般
- 『判例評論』[判例時報社](判評)
- 『判例時報』[判例時報社] (判時)
- 『判例タイムズ』[判例タイムズ社](判タ)
- Westlaw Japanで本文をダウンロード可能。
- 『法律時報』[日本評論社](法時)
- 「最高裁新判例紹介」に調査官による解説が掲載される。
- 『法曹時報』[法曹会](曹時)
- 『法学教室』[有斐閣](法教)
- 2006.04~2021.03までは電子ブックで
閲覧可能。 - Westlaw Japan のオプションコンテンツとして利用可能。(収録範囲:1961年7月の創刊号から最新号まで。)
- 2006.04~2021.03までは電子ブックで
- 『ジュリスト』[有斐閣](ジュリ)
- 「時の判例」に調査官による解説が掲載される。
- Westlaw Japan のオプションコンテンツとしてジュリスト・論究ジュリスト・判例百選の電子版を利用可能。
- 主題別
- 『民商法雑誌』[有斐閣](民商)
- Westlaw Japan のオプションコンテンツとして利用可能。(収録範囲:141巻1号(2009年)から最新号まで。)
- 『労働判例』[産労総合研究所](労判)
- 法学部図書室内の所定のPCから、記事の検索・全文閲覧が可能。
- 『旬刊金融法務事情』[金融財政事情研究会](金法)
- 法学部図書室内の所定のPCから、記事の検索・全文閲覧が可能。
- 『民商法雑誌』[有斐閣](民商)
公民ともに主要な判例集・判例雑誌については、当室2F閲覧室に所蔵があります。タイトルリストはこちら。
判例解説・判例評釈
判例だけを読んで内容を理解することは難しいため、学習の際には研究者や実務家によって執筆された判例解説・判例評釈を併読することが必要になってきます。重要な判例解説が掲載され、講義等でもよく利用される資料として以下のものがあげられます。
- 最高裁判所調査官解説
- 『最高裁判所判例解説 民事篇・刑事篇』[法曹会](判解・調査官解説)
判例解説資料の中でも、事件を担当した最高裁判所調査官が執筆した『最高裁判所判例解説』を「判例解説」もしくは「調査官解説」と呼び、最も重要な資料とされています。『法曹時報』掲載の判例解説を単行本化したものであるため、まだ単行本化されていない年度の事件についての判例解説については『法曹時報』の掲載記事から確認できます。法学部図書室内の所定のPCで、記事の検索・全文閲覧が可能です。 - 『ジュリスト増刊 最高裁時の判例』[有斐閣]
月刊ジュリスト「時の判例」「大法廷時の判例」「特集 大法廷判決・決定」に掲載された判例解説のうち、最高裁判例を対象に分野別に収録した資料。執筆者に最高裁判所調査官を含みます。
- 『最高裁判所判例解説 民事篇・刑事篇』[法曹会](判解・調査官解説)
- 判例雑誌別冊
主要な判例雑誌では別冊や増刊として、判例解説が多数出版されています。- 『別冊判例タイムズ 主要民事判例解説』(主判解)
- 『法律時報別冊 私法判例リマークス』(リマークス)
- 『法学セミナー増刊 速報判例解説』(速判解)
- 『別冊ジュリスト 判例百選』(百選)
- 『臨時増刊ジュリスト 〇年度重要判例解説』(年重判)
判例データベース
- 裁判例検索 [裁判所HP]
統合検索および審級ごとの検索が可能。他の資料やデータベースに比べて速報性があります。
- D1-Law.com [第一法規]【学内限定】
「現行法規」、「判例体系」、「法律判例文献情報」、「解説検索」のコンテンツを集約。タブを切り替えることで、法令・判例・文献・判例解説の包括的な検索が可能です。関連リンクが充実しており、引用文献を再検索する手間が必要ないことが特徴です。
※データベースへの接続ができない場合は電子リソースへのアクセスについてをご確認ください。
- Westlaw Japan [Thomson Reuters]【学内限定】
判例、法令、審決等、書籍・雑誌、文献情報、ニュース記事を横断検索できるデータベース。契約コンテンツとして一部の判例雑誌については本文入手が可能です。
※データベースへの接続ができない場合は電子リソースへのアクセスについてをご確認ください。
- 法律関連データベース一覧
京都大学で契約している法律関連データベースの一覧はこちら。
その他
- 「法律文献等の出典の表示方法」[法律編集者懇話会編]
法律文献を引用する際の標準的な方法のまとめ。判例掲載雑誌の略称の一覧も掲載されています。
本稿参考資料
- いしかわまりこ・藤井康子・村井のり子『リーガル・リサーチ [第5版]』日本評論社、2016年
- 国立国会図書館「リサーチナビ」https://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/(2018.02.21)
- 平成29年度法律図書館連絡会基礎講座 参考資料
最終更新日:2023/11/07