KURENAI: 収録論文数が3万件を突破! / 【特別インタビュー】経済学研究科・藤井秀樹教授
投稿日時:2009-03-16
(9780 ヒット)
2009年3月3日、京都大学の研究・教育成果を発信する論文アーカイブ「京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)」の収録論文数が3万件を超えました。
3万件目は、経済学研究科・藤井秀樹教授の研究室ゼミ論文集、
■資本構成の決定要因に関する実証分析 - 業界比較を中心にして - : 藤月会論集第18号
http://hdl.handle.net/2433/70792
となりました。
3万件目を記念して、藤井秀樹先生にインタビューをお願いしました。
●藤井秀樹先生 - 京都大学経済学研究科(会計学入門/会計学/財務会計論)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~hujii/myweb/
Q1: KURENAI収録3万件目となった『資本構成の決定要因に関する実証分析 - 業界比較を中心にして - : 藤月会論集第18号』はどのような内容でしょうか?
A1: この論文は,資本構成とりわけ負債比率の決定要因を実証的に同定することで,日本企業をとりまく経営環境と,そのもとで展開されるコーポレート・ガバナンスの特徴を明らかにしようとしたものです。こうした研究は,広い意味での会計研究に属するものです。しかし,作業仮説を立てるためには経済学やファイナンス理論が必要であり,会計情報を分析するには統計学が必要です。少し欲ばりな研究手法ですが,会計研究の国際的な主流になっていますので,それを学部ゼミ(演習)の共同研究にも取り入れているわけです。私の学部ゼミでは,毎年研究テーマを変えながら,こうした実証的な共同研究に取り組んでいます。その成果を,『藤月会論集』というゼミ論文集で公表してきました。それが,今年で18号になりました。Q2: 藤月会論集は研究室のゼミ論文集ですが、どのようにこのような内容の濃い報告書をまとめあげたのでしょうか? また、そのゼミ論文集をKURENAIを通じて発信することにはどのような意義があるとお考えですか?
A2: 2回生から4回生までの3学年合同の共同研究というゼミ形式が,論文の水準を生み出す重要な源泉になっているのではないかと,私は思っています。共同研究の統一テーマは,たとえば平成20年度であれば「資本構成の決定要因に関する実証分析」というようにゼミ全体で決めますが,実際の研究作業は,統一テーマをブレークダウンしたサブテーマにもとづいて,7〜8名の小グループで進めていきます。私のゼミナールには,各学年に約10名ずつ,3学年で約30名の学生が在籍していますので,これを4グループに分けると,1グループがだいたい7〜8名になります。この小グループのなかで,3回生が共同研究の中心的な役割を果たし,2回生はその補助をしながら各種の研究スキルをラーン・バイ・ドゥーイングで3回生から吸収していきます。4回生は過去の経験にもとづいて2・3回生にアドバイスしたり,研究作業の一部を担当したりします。必要な場合には,海外のジャーナルに掲載されたペーパーも参考にしながら研究作業を進めていきます。こうした3学年の緊密で有機的な連携関係は自然発生的に出来上がったものですが,それが,論文を作成するのに非常に良い形で作用してきたと思います。そういうグループ活動を行いますので,研究作業のほとんどの部分は,ゼミ以外の時間にやっていて,ゼミは各グループの1週間の研究成果をチェックするだけの場になっています。論文の追い込みの時期に入ると,多くのゼミ生が,連日10時間以上PCと向かい合うという状態になります。そういう意味では,『藤月会論集』に収録した論文は,ゼミ生たちの膨大な研究時間の結晶です。 研究の目標水準について申しますと,ゼミ生が卒業後,海外の大学のMBA(経営学修士)コースに留学した場合に,タームペーパーまたは修士論文が書ける程度の研究スキルを習得することを目標にして,研究に取り組んでいます。 私たちは,ゼミ論文集を,1人でも多くの人に読んでもらいたいと思っています。1人でも多くの人に読んでもらうことによって,共同研究というゼミ生たちの自己実現のプロセスが初めて完結するからです。しかし,学部学生の研究論文ですから,それを学会等の学術雑誌で発表することは非常に困難であり,事実上は不可能です。それでやむなく『藤月会論集』という私製の冊子体で研究成果を発表してきましたが,それだけでは,読者の広がりの点でも,対外的なインパクトの点でも,大きな限界があります。ゼミ論文を,KURENAIという京都大学の公式的な学術情報システムを通じて発信することで,対外的なインパクトを高めながら,読者層を全国,全世界に広げることができます。つまり,KURENAIは,ゼミ生たちに自己実現の重要な機会を与えてくれているのです。その意味で,KURENAIは,私たちにとって大変有難いシステムです。Q3: 藤月会論集は、2007年の『非財務情報の有用性に関する実証研究 : 藤月会論集第16号』が「KURENAIで2008年によく読まれた論文」の第47位にランクインしました。このようにアクセスが多いことに対する先生あるいは研究室のみなさんのご感想はありますか?
A3: 卒業論文やタームペーパー等を書こうとする学内外の学生さんが,研究の参考にする目的でアクセスするケースが多いのではないかと,推察しています。各年度の研究テーマは,ゼミ生が時事的な関心にもとづいて話し合って決めていますので,話題性のあるものが選ばれることが多く,そのことがアクセス数を押し上げる要因になっているのかもしれません。いずれにせよ,多くの方々が私たちのゼミ活動に注目して下さったことを,素直に喜んでおります。また同時に,ゼミ生たちには,次年度の共同研究に向かう際の大きな励みにもなっています。共同研究の水準を落とさないように,また可能であればさらに高い水準の共同研究を目指して,今後も引き続き研鑚を積みたいと思っています。Q4: KURENAIの取組みについて一言お願いします。
A4: 学内の各所に埋もれた学術情報を掬い上げ,それを広く社会に発信するというKURENAIの取組みの趣旨を読んだときに,これこそが,私どもが長年無意識のうちに求めていたものだと思いました。KURENAIは,私どものゼミ論文のような中間的な学術情報を対外的に発信するには,理想的なメディアです。京都大学には,埋もれた学術情報がまだたくさんあるはずです。KURENAIの担当者各位が,そうした学術情報を引き続き丹念に発掘され,KURENAIのコンテンツをさらに一層充実したものとされることを期待しております。そのような取組みが,京都大学の社会的使命を果たしていくことにも繋がると思います。藤井先生、お忙しい中、勇気付けられるコメントありがとうございました。KURENAI事業では、藤井先生にご指摘いただいたように、最先端の研究成果とともに「埋もれた学術情報」を掘り出し発信することで、京都大学の研究・教育活動を重層的に発信できるように努力していきたいと思います。 ○藤月会論集 https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/24365 ○京大論文アーカイブ【KURENAI(京都大学学術情報リポジトリ)】 [附属図書館電子情報掛]
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